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令和6年4月2日、首相官邸・経済産業省・国土交通省・

大阪府・大阪市に提出した意見

 テーマ 】

万博開幕まで残り1年。海外パビリオンの独自建設が困難なままでは、万博開催国としての資質を問われます。

  

【 意見 】 

万博参加国が独自に建設する海外パビリオン(51館のタイプA)は、万博の「華」です。しかし現時点で、約20館は建設工事契約が未締結のままです。約30館は建設工事契約が締結済みですが、我が国の大手建設業者と直接締結できたケースは殆ど無く、建築確認を取得して着工できたのは10館余りに過ぎません。

 

ここにきて、これまでは想定外の問題も表面化しています。建設工事が順調に進捗する巨大リングが今秋に繋がった暁には、リング内に林立予定の海外パビリオンの建設に欠かせない重機や資材の搬入に、大きな制約が生じかねないのです。このままでは、海外パビリオンの多くが来年4月の開幕に間に合わないという悪夢が現実化してしまいます。

 

万博協会は昨年7月、タイプXによる建設代行を提案しています。そして、海外パビリオン25館分のタイプX用建設資材を昨年末に調達済みです。ところが、タイプAからタイプXへの移行を表明したのは3カ国に留まったままです。

 

その理由ですが、タイプAの参加国の多くは、独自デザインによる建設方針を固持せざるを得ないのです。なぜならば、半年程に渡るコンペティションでパビリオンの建築デザインを選定済みであるから、あるいは、建築のデザインや設計、施工、内装や展示の空間設計を一括した契約を締結済みであるからです。このため、タイプAからタイプXに移行するには、これまでの選定手続きや契約手続きを白紙に戻した上で、タイプXでの内外装や展示内容を検討し直す必要があります。それゆえ、数年前から準備してきたタイプAでの建設が開幕に間に合わないという理由だけでは、タイプXに移行することは難しいのです。

 

他方、国内パビリオンでは、一昨年来の資材価格高騰の煽りを受けて建設工事契約締結に難渋するケースも多発しましたが、それでも、昨年の8月までに全ての国内パビリオンが、国内大手建設業者との建設工事契約を締結して、建設工事は順調に進捗しています。

 

つまり、海外パビリオンだけが、我が国の大手建設業者との建設工事契約を直接締結できないのです。主因は、「設計・施工分離の原則」による工事発注の仕方と、「組織対応」によるプロジェクト運営の仕方です。

 

我が国の常識である「設計・施工分離の原則」は、海外では全く通用しません。このため、外国政府と国内大手建設業者との間に、「建設工事契約についての認識の相違」が生じています。

 

我が国では、「設計・施工分離の原則」に基づく設計・施工分離発注方式が常識です。工事請負契約書の雛型である「公共工事標準請負契約約款」と「民間建設工事標準請負契約約款」のいずれも、設計・施工分離発注方式を前提としています。ところが、海外では性能発注方式の一類型であるデザインビルド方式が常識です。このため、外国政府の関係者には、設計・施工分離発注方式の概念を理解することは難しく、ましてや、我が国の標準的な工事請負契約書を理解して用いることは不可能です。

 

このような「建設工事契約についての認識の相違」に起因して、外国政府の関係者には、我が国の大手建設業者からの見積もり徴収も難しいのです。政府の外交ルートを通じた予算の増額やデザインの簡素化が昨年来求められていますが、見積もりの徴収すらできていない外国政府の関係者には、求められていることの必要性が殆ど理解されないままであると言えます。

 

また、万博協会は、我が国の官公庁では普遍的な「組織対応」によるプロジェクト運営に徹しています。これでは、前記の「認識の相違」を直視して解消を図ろうとする 「組織」が万博協会内に存在しない限り、「認識の相違」の解消に向けた手が何も打たれないままになってしまいます。また、「組織対応」では、組織として決定した方針の変更は容易ではないため、万博協会が組織として決定した「タイプXによる建設代行」について、希望する国が僅かであっても万博協会が敢行し続ける結果を招いています。

 

このままでは、万博の「華」である海外パビリオンの多くが、しかも海外パビリオンだけが万博開幕に間に合わなくなり、万博開催国としての我が国の資質を問われかねません。

 

こで、乾坤一擲の策を講じる必要があります。我が国の大手ゼネコンは、海外では性能発注方式で建設工事を受注しています。この経験と実績を活かすのです。国内大手建設業者が海外パビリオンの建設工事契約を直接締結できるようにするには、万博協会の「組織対応」によるサポートに基づき、大手ゼネコンが海外で受注した経験と実績を活かすことが最も効果的であり、これに優る策は無いと言えます。

 

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令和6年3月15日、首相官邸・内閣府・文部科学省の

各HPの「意見募集」等に提出した意見

 テーマ 】

カイロス打ち上げ失敗。試験1号機にロケットよりも高額な衛星を搭載して失い続ける我が国の愚かさ。

 

 【 意見 】

 民間企業のスペースワンが開発した小型固体燃料ロケット「カイロス」の試験1号機(打ち上げ費用は約8億円)は、内閣衛星情報センターの情報収集衛星(開発費用は約11億円)を搭載して、令和6年3月13日に打ち上げられました。ところが、打ち上げから僅か5秒後に、映像では順調に上昇していたカイロスは、「飛行の安全に重大な支障が生じた際に自動的に破壊する制御機能」が突如動作して、衛星もろとも自爆してしまいました。

 

振り返ってみますと、JAXAが開発した大型液体燃料ロケット「H3」の試験1号機(打ち上げ費用は約50億円)は、地球観測衛星だいち3号(開発費用は約380億円)を搭載して、令和5年3月7日に打ち上げられました。ところが、1段目から切り離された2段目のロケットエンジン点火に失敗(原因は、異常電流を検知した制御機能が点火に欠かせない電流を完全に遮断したこと)して、遠隔操作により衛星もろとも破壊されてしまいました。

 

「カイロス」と「H3」の1号機の打ち上げ失敗に共通することは、ソフトウェアとセンサーで構成される「制御機能」が働いた結果であるということです。ところが、このような「制御機能」の信頼性や安全性については、詳細設計図面を精査しても確認することができないのです。電流の流れやソフトウェアの動作といった目には見えない部分については、詳細設計図面からの判断ができないのです。

 

「H3」は、その製造に先立ちJAXAの「設計審査会」で詳細設計図面を精査され、メカニカルな信頼性や安全性についてのお墨付きを得た上で製造されました。しかし、前記の「制御機能」の信頼性や安全性が確認できていないまま打ち上げられたことが、致命傷に直結したと言えます。

 

「カイロス」は、JAXAが開発した小型固体燃料ロケット「イプシロン」を原型として、「イプシロン」の開発に携わった多数の技術者により開発されました。そして、「イプシロン」には無かった「飛行の安全に重大な支障が生じた際に自動的に破壊する制御機能」が新たに追加されています。このことから、「カイロス」も「H3」と同様に、詳細設計図面の精査により、メカニカルな信頼性や安全性については十分に確認した上で製造されたのですが、前記の「自動的に破壊する制御機能」の信頼性や安全性については確認できていないまま打ち上げられたことが、致命傷に繋がったと推察されます。

  

「カイロス」も「H3」も、試験1号機にロケット本体よりも高額な衛星を搭載してしまったのは、詳細設計図面の精査により、ロケットの信頼性や安全性については十分に確認できていると過信してしまった結果と言えます。しかし、繰り返しになりますが、ロケットの信頼性や安全性に直結する「制御機能」の多くは、ソフトウェアとセンサーにより構成されており、このような「制御機能」の信頼性や安全性は、詳細設計図面の精査では確認できないのです。

 

このような問題を抜本的に解決するには、プロジェクトマネジメントの在り方を変えていく他にはありません。我が国では、「組織対応」と称して、関係する組織ごとの部分最適化を図っていくプロジェクトマネジメントが主流です。この場合のプロジェクトマネージャの役割は、関係する各組織間の「まとめ役」、つまり、コーディネーターに過ぎなくなります。しかし、これでは、プロジェクトマネージャは、関係する組織ごとの部分最適化を全て確認すれば「やるべきことは全てやり尽くした。」として、試験1号機に本番の衛星を搭載する動きとなってしまうのです。

 

実は、「組織対応」と称するプロジェクトマネジメントは、我が国独自のやり方です。欧米諸国では、そもそも「組織対応」という概念や用語が存在しません。欧米諸国では、トップダウンにより全体最適化を図る権限を有する「真のプロジェクトマネージャ」が、責任を持ってプロジェクト運営全般を司るのが当たり前です。それゆえ、ロケット打ち上げに失敗して搭載した衛星を失った場合の責任者は「真のプロジェクトマネージャ」となりますから、試験1号機に本番の衛星を搭載するといった判断はあり得ないのです。また、ソフトウェアとセンサーで構成される「制御機能」の信頼性や安全性は、トップダウンにより全体最適化を図るプロジェクト運営の中でしか確保できないのです。具体的には、基礎設計の段階から、ソフトウェアとセンサーで構成される「制御機能」の信頼性や安全性について、求められる機能と性能の要件を明確にして、それらを設計や製造に具体的に反映させていくプロセスを遂行することが効果的であり、また、必須であると言えます。

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令和6年2月17日、首相官邸・国土交通省・総務省・

全国都道府県の各HPの「意見募集」等に提出した意見

 テーマ 】

設計・施工分離発注方式は総合評価落札方式一般競争入札に適さないため、談合の温床になります。

  

【 意見 】 

 令和6年2月13日付の日経クロステック記事「三重県でまた談合疑惑の入札取りやめ、3カ月前には職員逮捕も」、令和5年12月25日付の日経クロステック記事「三重県職員を収賄罪で起訴、入札参加者への技術指導の見返りに200万円」、令和5年12月19日付の日経クロステック記事「治山ダム修繕工事で談合の疑い、2社の技術提案が酷似」によれば、いずれも三重県の発注に係る道路法面復旧工事、水道管補修工事、治山ダム修繕工事において、短期間の内に3件もの談合疑惑が報道されています。

 

 いずれの工事も、設計・施工分離発注方式で施工を発注するものであり、受注者の選定方法は、総合評価落札方式一般競争入札です。このような工事発注方法は、我が国の自治体で普遍的に用いられていますが、上記のような談合事案、談合疑い事案の発生を抑止することが困難です。その理由ですが、設計・施工分離発注方式は総合評価落札方式一般競争入札に適さないため、そのような不適合が談合の温床になるからです。つまり、発注者である自治体では、価格と技術の両面での競争原理を働かせることに傾注するのが難しいため、発注関係書類上の辻褄合わせに傾注しがちとなるからです。

 

 ここで、総合評価方式が我が国に導入された経緯についてですが、平成5年から6年にかけて開催された日米包括経済協議で、米国からその採用を強く求められたことが発端です。米国の公共工事の発注では、プロポーザルとネゴシエーションに基づく設計・施工一括発注方式が普遍的に用いられているため、価格と技術の両面を総合評価する方式は受注者選定に不可欠です。ところが、我が国の公共工事の発注では、設計・施工分離発注方式が普遍的に用いられているため、プロポーザルとネゴシエーションを前提とする総合評価方式との親和性に欠けており、書類上の総合評価のための詳細設計を応札者に求めて一者応札の事態を頻発させるなど、競争原理が逆に阻害されています。このように、設計・施工分離発注方式と総合評価落札方式一般競争入札との不適合が、談合の温床を形成してしまうのです。

 

ところで、我が国で普遍的な設計・施工分離発注方式は、実は、他国に類を見ない我が国独自の発注方式です。我が国だけが拘り続けている設計・施工分離発注方式ですが、実際には我が国に何もメリットが無く弊害ばかりであることが、次のとおり、大阪・関西万博の海外パビリオン建設契約締結が進まないことで初めて顕在化しました。

大阪・関西万博の来春の開幕に向けて、現時点で最も懸念されることは、海外各国が独自に建設する51館のパビリオン建設工事が大幅に遅れており、その多くが開幕までに出来上がらない恐れがあることです。51館の内、現時点で着工したのは2館のみであり、20館では建設業者が未定(建設工事契約が未締結)のままです。建設工事契約が締結できた31館では、国内の大手ゼネコンが直接請け負ったケースはありません。これでは、来春の開幕時に、万博の「華」である海外パビリオンの多くが出来上がっていないという悪夢が現実となりかねません。

 

 他方、国内パビリオンでは、昨年の8月頃までに全ての建設工事契約がゼネコン等の国内大手建設業者と締結済みです。海外と国内のパビリオンでは、建設工事契約締結の進捗状況に雲泥の差があります。その原因ですが、外国政府のパビリオン関係者とゼネコン等国内建設業者との間で、建設工事契約についての認識が大きく隔たっているのです。我が国では、設計・施工分離発注方式(このとおりに造ってくれといった、我が国独自の発注方式)が常識であり、工事請負契約書の雛型である「公共工事標準請負契約約款」と「民間建設工事標準請負契約約款」のいずれも、設計・施工分離発注方式を前提としています。ところが、海外ではデザインビルド方式(別途選定した建築デザインに基づく設計・施工一括発注方式であり、このようなものを造ってくれといった、グローバルスタンダードな発注方式)が常識です。このため、外国政府のパビリオン関係者には、設計・施工分離発注方式の概念を理解することは難しく、ましてや、我が国の標準的な工事請負契約書を理解して用いることは不可能です。

 

 このことから、我が国の自治体がこの先、冒頭記載の談合事案や談合疑い事案の発生を抜本的に抑止していくためには、我が国独自で弊害ばかりの設計・施工分離発注方式への拘りを捨てて、グローバルスタンダードな設計・施工一括発注方式を取り入れて、総合評価落札方式一般競争入札で価格と技術の両面の競争原理を確実に働かせていくことが肝要です。 

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令和6年1月28日、首相官邸・経済産業省・国土交通省・

財務省・総務省の各HPの「意見募集」等に提出した意見

 テーマ 】

大阪・関西万博開催延期についての、高市大臣から首相へのご進言に賛同致します。

 

 

 【 意見 】

  2024年1月27日付の朝日新聞デジタル記事『高市氏「万博延期すべき」と首相に進言、能登地震への対応優先を主張』によれば、高市早苗経済安全保障担当大臣は、今年の1月16日に首相官邸で首相と面会した際に、能登半島地震の被災地では復旧・復興に向けて資材や人手が不足しているため、大阪・関西万博の開催を延期して能登半島地震からの復旧・復興を優先するべきとの旨を、首相に進言されたと報道されています。

 

 大阪・関西万博の2025年4月の開幕に向けて、現時点で最も懸念されることは、海外各国が独自に建設する、万博の「華」とも言うべき海外パビリオンの建設が大幅に遅れており、その多くが開幕までに出来上がらない恐れがあることです。海外各国が独自に建設する51館のパビリオンの内、現時点で着工したのは1館のみであり、20館では建設業者が未定(建設工事契約が未締結)のままです。建設工事契約が締結できた31館では、国内の大手ゼネコンが直接請け負ったケースはありません。万博協会では、昨年末までに建設業者が決まらない海外パビリオンは建設が開幕までに間に合わない恐れがあるとして、箱型のプレハブ方式パビリオンであるタイプXの建設資材を24館分既に発注済みです。しかし、海外パビリオンは、いずれもそれぞれの国内で建築デザインを選りすぐったものであるため、独自建設を断念してタイプXに乗り換える国は少なく、3ヶ国に留まったままです。これでは、2025年4月の万博開幕時に、万博の「華」とも言うべき海外パビリオンの多くが出来上がっていないという悪夢が現実となりかねません。

 

 他方、国内パビリオンでは、昨年の8月頃までに全ての建設工事契約がゼネコン等の国内大手建設業者と締結済みです。海外パビリオンと国内パビリオンでは、建設工事契約締結の進捗状況に雲泥の差があります。その原因を調べてみたところ、外国政府のパビリオン建設発注関係者とゼネコン等国内建設業者との間で、建設工事契約についての認識が全くかけ離れているのです。我が国では「設計・施工分離の原則」に基づく設計・施工分離発注方式(つまり、この設計図面のとおりに造ってくれといった、他国に類を見ない我が国独自の発注方式)が常識であり、工事請負契約書の雛型である「公共工事標準請負契約約款」と「民間建設工事標準請負契約約款」のいずれも、設計・施工分離発注方式を前提としています。ところが、海外ではデザインビルド方式(つまり、別途選定した建築デザインに基づいて設計と施工を一括発注する方式であり、このようなものを造ってくれといった、グローバルスタンダードな発注方式)が常識です。このため、外国政府のパビリオン建設発注関係者には、設計・施工分離発注方式の概念を理解することは難しく、ましてや、我が国の標準的な工事請負契約書を理解して用いることは不可能です。

 

 経産省と万博協会は、昨年の8月以降、経産省や財務省の現役幹部職員等を万博協会に異動させて対外折衝体制を強化し、また、外国政府と国内建設業者を引き合わせる会合を複数回開催するなど、海外パビリオンの建設工事契約締結の促進を「組織対応」により図ってきました。しかし、このような「組織対応」が効を奏して外国政府が国内建設業者と建設工事契約を直接締結した事例は、残念ながら殆ど見られません。

 

 ところで、契約の締結については、民法に則り、発注者と受注者が対等の立場で信義誠実の原則に基づき、「誰が誰に」、「何を」、「いつまでに」、「いくらで」、「どうするか」の5点について、発注者と受注者の双方が十分に納得した上で契約書に署名捺印すればよいことです。そこで、契約の当事者である発注者と受注者を「組織対応」で支えるべきことは、前記の5点の内の、「何を」、「いつまでに」、「どうするか」の3点についての合意内容が齟齬無く明確なものとなるように助言すること、つまり、契約書に編綴される発注書の簡潔明瞭かつ必要十分な書き方について、外国政府のパビリオン建設発注関係者に助言することです。しかし、残念なことに、このような助言はこれまで全くなされませんでした。

 

 そこで、能登半島地震からの復旧・復興を優先するためにも大阪・関西万博の開幕を延期した上で、前記の助言を万博協会の「組織対応」で実施していけば、海外パビリオンの建設工事契約を国内の大手ゼネコン等が直接請け負う道も開かれ、万博の「華」とも言うべき海外パビリオンの全てが万博開幕までに咲き揃う夢が現実となります。 

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令和6年1月27日、首相官邸・国土交通省・総務省の

各HPの「意見募集」等に提出した意見

 テーマ 】

これからのインフラメンテナンスには、費用対効果が期待できるインフラはどれかの見極めが欠かせず、また、予算を投入できないインフラへの対処をどうしていくべきかの検討も欠かせません。

 

 【 意見 】 

 2012年の中央自動車道笹子トンネル天井板落下事故を端緒として2013年を社会資本メンテナンス元年とする「インフラメンテナンス第1フェーズ」では、2014年の関係省庁連絡会議決定による「インフラ長寿命化基本計画」や、2016年の「インフラメンテナンス国民会議」の設立などにより、令和2年度末までに各インフラ管理者において個別施設ごとの長寿命化計画(個別施設計画)を策定するなどの結果を出しています。そして、2022年からの「インフラメンテナンス第2フェーズ」では、前記の個別施設計画を踏まえて、事後保全から予防保全への移行を主眼とし、「地域インフラ群再生戦略マネジメント」などの推進が図られているところです。

 

 ここで問題となるのは、昨今の「資材価格の高騰や、働き方改革関連法に基づく労働時間の制約」といった、受注建設業者の死活問題に繋がりかねないリスク要因が主因となり、自治体の公共事業などでは予算額を大幅増額しなければ受注業者を選定できない事態が全国で相次いでいることです。この煽りを受けて2022年以降のインフラメンテナンスでは、全国的に数割ものコスト増となっています。つまり、インフラメンテナンス第1フェーズと同規模の予算を確保したとしても、インフラメンテナンス第2フェーズでは数割減のメンテナンスしかできないということです。このことは、新技術の導入などの発注上の施策により対処し切れるものではありません。

 

 それゆえ、これからは限られた予算を費用対効果が期待できるインフラから重点的に投入していくことが肝要となります。これには、費用対効果が期待できるインフラはどれかの見極めが欠かせず、また、予算を投入できないインフラへの対処をどうしていくべきかの検討も欠かせません。このような見極めや検討こそ、地域インフラ群再生戦略マネジメントのキーポイントと言えるのではないでしょうか。

 

 ところが、このようなキーポイントについて、国土交通省の『総力戦で取り組むべき次世代の「地域インフラ群再生戦略マネジメント」、インフラメンテナンス第2フェーズへ』提言書について、では全く触れられておらず、インフラメンテナンス国民会議の地域フォーラムを含めたどのフォーラムにおいても、全く触れられていません。このままでは、費用対効果が期待できるインフラはどれかの見極め方について、どこの自治体も判然としないままに、また、予算を投入できないインフラへの対処をどうしていくべきかについて、どこの自治体も全く検討しないままに、全国の自治体はインフラメンテナンス第2フェーズを漫然と推進していかざるを得なくなります。

 

 このことについての問題意識は、村役場でも持っています。今年の1月25日に関西圏の某村役場の秘書企画課から頂いたメールには、「本村では、少子高齢化や人口減少が進む中、今後さらに財政運営は厳しくなることが予測されます。その中で公共施設の老朽化対策も大きな課題の一つであり、施設そのもののあり方についても検討する必要があります。」と記載されていました。

 

 それゆえ、これからは限られた予算を費用対効果が期待できるインフラから重点的に投入していくことが肝要となりますので、費用対効果が期待できるインフラはどれかの見極め方について、また、予算を投入できないインフラへの対処をどうしていくべきかの検討の仕方について、自治体任せにするのではなく、国を挙げて考えていかなければならないところです。具体的には、インフラメンテナンス国民会議の自治体支援フォーラムあるいは市民参画フォーラムにおいて、費用対効果が期待できるインフラはどれかの見極め方について、また、予算を投入できないインフラへの対処をどうしていくべきかの検討の仕方について、広くディスカッションなどを行う場を設けることから始めてみる価値は大いにあるように思います。

 

 【 1月31日に内閣府の「防災対策」にも提出した際の補足意見 】  

 大規模災害対策の視点からも、これからのインフラメンテナンスには、費用対効果が期待できるインフラはどれかの見極めが欠かせず、また、予算を投入できないインフラへの対処をどうしていくべきかの検討も欠かせません。我が国では、国も自治体も、このような視点が全く欠落しているように感じます。このままでは、大規模な災害によりインフラが広範にダメージを受けた場合に、復興策としてインフラを元通りにしようとする他には成す術が無くなってしまいます。

 しかし、多くの費用と時間をかけてインフラを元通りにできたとしても、人口減少や高齢化が進んでいる今日では、かつてのインフラ整備時に期待されたような便益は望み得ないところです。このことから、これからのインフラメンテナンスに向けて、費用対効果が期待できるインフラはどれかを見極め、また、予算を投入できないインフラへの対処はどうしたらよいのかについて検討を積み重ねておけば、大規模な災害が発生してインフラが広範にダメージを受けた際に、限りある復興予算を最大限に有効活用できるようになります。

 南海トラフ巨大地震の発生が懸念されていますので、巨大地震発生後のダメージコントロールの視点からも、費用対効果が期待できるインフラはどれかを見極め、また、予算を投入できないインフラへの対処はどうしたらよいのかについて検討を積み重ねておくことが望まれます。

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令和6年1月14日、首相官邸・総務省・国土交通省の

各HPの「意見募集」等に提出した意見

 テーマ 】

インフラ老朽化問題で顕在化した自治体の技術職員不足は、包括的民間委託の手法で解決できます。

 

 【 意見 】

 令和6年1月10日付の日経電子版記事「老いるインフラ、地方で放置深刻。橋の6割未着手」、令和6年1月1日付の日経電子版記事「インフラ修繕、自治体が共同で。国交省が支援」、令和5年12月21日付の日経電子版記事「インフラの老朽化対策、霞が関の壁取り払え」によれば、全国の約4分の1の市町村では、土木・建築分野の技術系職員が1人もいないため、事務系職員が老朽インフラ対策工事の発注事務を担っているとのことです。全国の自治体では、老朽インフラ対策工事を全て仕様発注方式(設計・施工分離発注方式)で実施しています。しかし、仕様発注方式では、設計発注段階での成果物(設計図書)の確認や、施工発注段階での監督及び検査について、事務系職員が実効的に行うことは困難です。それゆえ、仕様発注方式による契約の履行上欠かせないこのような発注者としての確認・監督・検査は、外部の業者に「ほぼ丸投げ」で委託せざるをえないところです。つまり、発注者でありながら、発注している具体的な内容を殆ど掴んでいないまま、老朽インフラ対策工事を自治体は発注しているといっても決して過言ではありません。このような問題を抜本的に解決するためとして、上記の3つの日経電子版記事では、土木・建築分野の技術系職員の確保が欠かせないとしています。しかし、技術系職員はスペシャリストですから、建築分野の職員は土木分野に疎く、土木分野であっても橋梁を専門とする職員はトンネルや道路に疎いと言えます。自治体が抱えている老朽インフラは、橋梁、トンネル、道路、公共建築物など、多岐にわたります。それゆえ、仕様発注方式による契約の履行上欠かせない発注者としての確認・監督・検査を実効的に行うには、当該契約に係る技術分野を専門とする職員をそれぞれ確保しておく必要がありますので、技術系職員を何とかして1人確保すれば済むといった話ではありません。

 

ところで、令和5年3月22日付の国交省の報道発表資料『「インフラメンテナンスにおける包括的民間委託導入の手引き」を作成しました。〜「地域インフラ群再生戦略マネジメント」の推進に向けて〜』によれば、国交省は、橋梁や道路などを別々に維持更新するのではなく、自治体での導入事例が増えている包括的民間委託の手法を用いて、老朽インフラ対策を包括的、合理的かつ効率的に推進しようとしています。包括的民間委託では、仕様発注方式による業者選定ができないため、必然的に性能発注方式(設計・施工一括発注方式)による業者選定となります。性能発注方式では、「受注者にどのような結果を求めているのか」について、受注者が設計と施工を行う上で必要十分となるように分かりやすく示した要求水準書を作成することが肝要です。このような要求水準書であれば、自治体の事務系職員であっても発注内容を十分に理解することができますし、対価支払いに先立つ検査についても、「設計図面通りに寸分違わずできているか」ではなく、「受注者に求めた結果が全て達成されているか」を確認すればよいので、事務系職員でも十分に対応できます。上記の3つの日経電子版記事では、自治体での老朽インフラ対策の推進には技術系職員の確保が欠かせないとしていますが、全国の約4分の1の市町村では技術系職員が1人もいない実情に照らせば、「百年河清をまつ」が如くの夢物語です。それゆえ、事務系職員や専門外の技術系職員でも十分に対応できる包括的民間委託の手法の全面的な採用こそ、自治体の老朽インフラ対策における人材に起因する問題の抜本的な解決策となります。

 

ちなみに、自治体が老朽インフラ対策工事を発注する際に用いる契約書は、中央建設業審議会決定に基づく「公共工事標準請負契約約款」を雛形としています。この「公共工事標準請負契約約款」は、仕様発注方式の工事仕様書を前提としたものであるため、包括的民間委託に欠かせない性能発注方式の要求水準書とは整合が全くとれません。自治体では新庁舎整備事業等において、詳細設計付き工事発注方式や設計・施工一括発注方式による事例が増えているところですが、「公共工事標準請負契約約款」に基づく建設工事請負契約書を用いざるをえないため、契約書の条項と要求水準書の記載内容には放置できない乖離や矛盾が至るところに生じます。それゆえ、包括的民間委託による老朽インフラ対策を進める上で、性能発注方式の要求水準書と整合する工事請負契約書の雛形を早急に示すことが求められています。

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令和5年12月28日、首相官邸・経済産業省・財務省・国土交通省

・総務省・大阪府・大阪市の各HPの「意見募集」等に提出した意見

 テーマ 】

「設計・施工分離の原則」への拘りが、大阪・関西万博の成功を覚束無くしています。

 

 

 【 意見 】 

2025年4月に開幕予定の大阪・関西万博では、海外各国が独自に建設する、万博の「華」とも言うべき海外パビリオン(51館)の全てが現時点で未着工であり、その半数近い24館では建設業者が未定(建設工事契約が未締結)です。建設工事契約が締結できた27館では、国内の大手ゼネコンが直接請け負ったケースはありません。万博協会では、年内に建設業者が決まらない海外パビリオンは建設が開幕までに間に合わない恐れがあるとして、箱型のプレハブ方式パビリオンであるタイプXの建設資材を24館分既に発注済みです。しかし、海外パビリオンは、いずれもそれぞれの国内で建築デザインを選りすぐったものであるため、独自建設を断念してタイプXに乗り換える国は少なく、3ヶ国に留まったままです。これでは、2025年4月の開幕が極めて危ぶまれます。

 

国内パビリオンでは、今年の8月頃までに全ての建設工事契約がゼネコン等の国内大手建設業者と締結済みです。海外パビリオンと国内パビリオンでは、建設工事契約締結の進捗状況に雲泥の差があります。その原因を調べてみたところ、外国政府のパビリオン建設発注関係者とゼネコン等国内建設業者との間で、建設工事契約についての認識が全くかけ離れているのです。我が国では「設計・施工分離の原則」に基づく設計・施工分離発注方式(つまり、この設計図面のとおりに造ってくれといった、他国に類を見ない我が国独自の仕様発注方式の一類型)が常識となっており、工事請負契約書の雛型である「公共工事標準請負契約約款」と「民間建設工事標準請負契約約款」のいずれも、設計・施工分離発注方式を前提としています。ところが、海外ではデザインビルド方式(つまり、別途選定した建築デザインに基づいて設計と施工を一括発注する方式であり、このようなものを造ってくれといった、グローバルスタンダードな性能発注方式の一類型)が常識です。このため、外国政府のパビリオン建設発注関係者には、設計・施工分離発注方式の概念を理解することは難しく、ましてや、我が国の標準的な工事請負契約書を理解して用いることは不可能です。

 

経産省と万博協会は、今年の8月以降、経産省や財務省の現役幹部職員等を万博協会に異動させて対外折衝体制を強化し、外国政府と国内建設業者を引き合わせる会合を複数回開催するなど、海外パビリオンの建設工事契約締結の促進を「組織対応」により図っています。しかし、外国政府が国内建設業者と建設工事契約を直接締結した事例は、カナダ館やルクセンブルク館などの少数に留まったままです。

 

ところで、契約の締結については、民法に則り、発注者と受注者が対等の立場で信義誠実の原則に基づき、「誰が誰に」、「何を」、「いつまでに」、「いくらで」、「どうするか」の5点について、発注者と受注者の双方が十分に納得した上で契約書に署名捺印すればよいことです。そこで、契約の当事者である発注者と受注者を「組織対応」で支えるべきことは、前記の5点の内の、「何を」、「いつまでに」、「どうするか」の3点についての合意内容が齟齬無く明確なものとなるように助言すること、つまり、契約書に編綴される発注書の簡潔明瞭かつ必要十分な書き方について、外国政府のパビリオン建設発注関係者に助言することです。しかし、残念なことに、このような支援・助言は全くなされませんでした。

 

設計・施工分離発注方式(仕様発注方式)が我が国だけの常識となっていることの弊害は、海外パビリオン建設契約締結が進まないことで初めて顕在化したのですが、今年2月の三菱スペースジェットの開発中止や今年3月のH3ロケットの打ち上げ失敗について分析したところ、やはり、失敗の根元には仕様発注方式の取り組み方や考え方がありました。このように、我が国では仕様発注方式の取り組み方や考え方があらゆる分野で常識となっていることが、我が国のイノベーションを阻害しプロジェクトを破綻させるなど、我が国の技術立国としての立場を危うくしています。

 

 そこで、「我が国の常識である仕様発注方式の考え方や取り組み方を、グローバルスタンダードな性能発注方式の考え方や取り組み方に変えていくこと」こそ、我が国の数十年来の長期低落傾向に歯止めを掛け、我が国を再び活性化できる大きな切り札となります。それゆえ、昭和34年1月発出の建設事務次官通達「土木事業に係わる設計業務等を委託する場合の契約方式等について」で示された「設計・施工分離の原則」が、今日では土木分野のみならず建築分野や各種製造請負分野に「我が国の常識」として浸透している実情を直視して、「我が国の常識」は「世界の非常識」であることを国全体で自覚する必要があると言えます。

  

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令和5年9月26日、首相官邸・経済産業省・財務省・国土交通省

総務省・大阪府・大阪市の各HPの「意見募集」等に提出した意見

 テーマ 】

「設計・施工分離の原則」に拘ったデザインビルド方式による新庁舎建設は、上手くいくはずがありません。

 

 

 【 意見 】

 令和5年9月14日付の日刊建設新聞千葉県版記事「八千代市 新庁舎整備の入札中止 デザインビルド方式参加者辞退で」によれば、八千代市は、デザインビルド方式(国土交通省の「公共工事の入札契約方式の適用に関するガイドライン」に示された詳細設計付き施工発注方式)による新庁舎建設工事の総合評価一般競争入札について、入札参加者の途中辞退により中止したことを公表しています。八千代市が入札の大前提とした基本設計(約1億円で設計委託)と予定価格(約86億円)と工期(2026年6月まで)では、誰も受けてくれないことが明白となり、建設プロジェクトを前に進めることが極めて困難な状況に陥ってしまいました。

 

まさに、大阪・関西万博政府出展パビリオンである日本館が、設計・施工分離発注方式による総合評価一般競争入札で不成立となった状況と酷似しています。結局のところ、日本館は、「資材価格の高騰や、働き方改革関連法による労働時間の制約」といったリスク要因への対処が必要であるとして、当初の予定価格を約9億円上回る約76億円で、清水建設と随意契約を締結しています。また、契約締結後に、日本館のデザインや設計を簡素化していくとしています。しかし、これでは、契約金額の約76億円が、どのようなデザインや設計に基づいた施工結果(竣工後の日本館)への対価であるのか、全く判然としない契約であるため、会計検査院の会計検査を受けた際に、会計関係法令(特に、予算決算及び会計令の第九十九条と第九十九条の二)との合規性が問題になるところです。

 

日本館は設計・施工分離発注方式であり、八千代市新庁舎は詳細設計付き施工発注方式ですが、入札不成立を招いた原因は、八千代市新庁舎の方が深刻です。その理由は次のとおりです。

 

八千代市の新庁舎建設は、前記のガイドラインに示された詳細設計付き施工発注方式の取り組み方に従って、基本設計の発注結果に基づき、詳細設計付き施工を発注するという枠組みです。ここで、基本設計の発注に際して、「基本設計の受託業者は、詳細設計付き施工には参加できない。」とする制限条項を設けています。同様の制限条項は、千葉県下の他の自治体での詳細設計付き施工発注方式による新庁舎建設でも見受けられます。ところが、このような制限条項を設ける必要性については、前記のガイドラインのどこにも見当たりません。つまり、八千代市等では、詳細設計付き施工発注方式が設計・施工一括発注方式の一類型であるのにも関わらず、昭和34年の建設事務次官通達で示された「設計・施工分離の原則」に強く拘り続けているのです。その結果として、基本設計受託業者が詳細設計付き施工に参加できないといった非現実的な枠組み(基本設計時のノウハウに欠ける別の設計業者による詳細設計は、費用対効果の面でマイナス要因ばかりです)を自ら作り出してしまい、この枠組みに自らを縛り付けてしまったと言えます。これに加えて、詳細設計付き施工の内容を規定する要求水準書についても、あたかも設計・施工分離発注方式における実施設計業務請負仕様書と工事仕様書を合体したかのような内容になってしまっています。

 

このように、「設計・施工分離の原則」に拘った詳細設計付き施工発注方式であったことが、八千代市の総合評価一般競争入札不成立の根本原因と言えます。つまり、昨今の状況(資材価格の高騰や、働き方改革関連法に基づく労働時間の制約)が、設計・施工分離発注方式による日本館と同様に、大きなリスク要因として働いてしまったのです。これに加えて、日本館のような設計・施工分離発注方式による建設工事(つまり、施工のみ)の入札に参加する場合よりも、八千代市新庁舎のような基本設計受託業者の関与を認めない詳細設計付き施工発注方式による建設工事の入札に参加する場合の方が、入札参加者から見たリスク要因は増大してしまったのです。この点が、「入札不成立を招いた原因は、日本館よりも八千代市新庁舎の方が深刻である」ことの理由です。いわば、八千代市では、詳細設計付き施工発注方式を含めた設計・施工一括発注方式の本質が理解できていなかったため、設計・施工分離発注方式の起源となった「設計・施工分離の原則」を持ち出してしまい、設計段階での「ボタンのかけ違い」を生じたことが問題をより大きくしてしまったと言えます。

 

それゆえ、詳細設計付き施工発注方式を用いる場合には、設計・施工一括発注方式の本質についての理解が不可欠です。つまり、発注内容を規定する要求水準書では、受注者が設計・施工する上で必要十分となるよう、受注者に実現を求める要求要件を簡潔明瞭に記載するのが大事であるということです。

 

 【 上記意見を千葉県下の自治体にも提出しました。

◯ 令和5年9月24日、千葉県下の全自治体に対して、上記と同じ内容の意見を提出しました。

 

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令和5年9月24日、首相官邸・経済産業省・財務省・国土交通省

・大阪府・大阪市の各HPの「ご意見募集」等に提出した意見

 テーマ 】

海外パビリオン建設契約締結促進には、発注者と受注者が齟齬無く合意できる発注書の作成が必要です。

 

 【 意見 】

 令和5年9月21日付の日経電子版記事「建設遅れの大阪万博支援、国際事務局が職員派遣を打診」によれば、パリに本部を置く博覧会国際事務局は、海外パビリオン建設契約の遅れが目立つ大阪・関西万博を支援するため、豊富な運営ノウハウを有する事務局職員2名を、年内にも日本国際博覧会協会に派遣したいとのことです。

海外パビリオン建設契約締結促進に向けて、経済産業省は先月上旬に、前経済産業事務次官と前経済産業審議官を外国政府との折衝役に任じていますし、岸田首相は先月下旬に、関係閣僚に取り組みを指示するとともに、財務省と経済産業省の局長級幹部を現地派遣する方針を示しています。しかし、これまでのところ、海外パビリオン建設契約締結を大きく促進できたようには見受けられません。

海外パビリオン建設契約については、民法に則り、当該国政府(発注者)と我が国の建設事業者(受注者)が対等の立場で信義誠実の原則に基づき、「誰が誰に」、「何を」、「いつまでに」、「いくらで」、「どうするか」の5点について、発注者と受注者の双方が十分に納得した上で契約書に署名捺印すれば締結できます。ここで、前記の5点の内の、「何を」、「いつまでに」、「どうするか」の3点については、契約書に編綴される発注書において、発注者と受注者の双方が齟齬無く理解できるよう、簡潔明瞭かつ必要十分に記載することが肝要です。

ところが、外国政府と我が国の建設事業者の双方が齟齬無く理解できる発注書のモデルが、どこにも見当たらないのです。これは、外国政府と我が国の建設事業者との間で、パビリオン建設に向けた発注の取り組み方が大きく異なっているためです。

外国政府が理解する発注の取り組み方は、下記の万博イタリア館建設における取り組み方です。他方、我が国の建設事業者が理解する発注の取り組み方は、下記の八千代市新庁舎建設における取り組み方です。建設工事を発注する際の取り組み方がこれ程までに異なっていることが、海外パビリオン建設契約締結が進まなかった最大の原因と考えられます。それゆえ、建設契約締結を促進するには、外国政府と我が国の建設事業者の双方が齟齬無く理解できる発注書(つまり、建設対象のコンセプトを明確にした上で、受注者に実現を求める要求要件について、受注者が設計・施工する上で必要十分となるように記載した発注書)を作成していく必要があります。

 

(イタリア館の取り組み方)

イタリア館は、マリオ・クチネッラ建築設計事務所の建築デザインが選定され、これに基づき、発注元であるイタリア館コミッショナージェネラルと、マリオ・クチネッラ建築設計事務所との間で、デザインビルド方式(別途に選定した建築デザインに基づく詳細設計付き施工発注方式)によるパビリオン建築契約を先月締結しています。この契約の履行に向けて、マリオ・クチネッラ建築設計事務所では、詳細設計と施工を共に担う企業グループ(マリオ・クチネッラ建築設計事務所が元請ですから、下請に相当します。この下請グループの参加メンバーは、西尾レントオール株式会社、公成建設株式会社、株式会社乃村工藝社、松田仁樹建築設計事務所、Beyond Limits等です。)を構成しています。

 

(八千代市新庁舎の取り組み方)

千葉県八千代市は、デザインビルド方式(国土交通省の「公共工事の入札契約方式の適用に関するガイドライン」に示された詳細設計付き施工発注方式)による新庁舎建設工事の総合評価一般競争入札について、入札参加者の途中辞退により中止したことを今月公表しています。八千代市の新庁舎建設は、前記のガイドラインに従ったものであり、基本設計の発注結果に基づいて、詳細設計付き施工発注方式により建設工事を発注するという枠組みです。基本設計の発注に際して、「基本設計の受託業者は、詳細設計付き施工には参加できない。」とする制限条項を設けることにより、昭和34年の建設事務次官通達で示された「設計・施工分離の原則」を踏襲しています。同様の制限条項は、千葉県下の他の自治体での詳細設計付き施工発注方式による新庁舎建設でも見られるので、全国の自治体において、同様の制限条項を設けた詳細設計付き施工発注方式が用いられていると推察されます。しかし、これでは、基本設計受託業者の設計ノウハウを詳細設計付き施工に活かすことができないといった非効率な枠組み(基本設計時のノウハウに欠ける別の設計業者による詳細設計は、費用対効果の面でマイナス要因ばかりです)を作り出してしまいます。それゆえ、八千代市は、入札参加者の途中辞退により入札中止の事態を招いて、新庁舎建設契約締結の目処が立たなくなってしまったと言えます。

 

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令和5年9月3日、首相官邸・経済産業省・財務省・国土交通省

・大阪府・大阪市の各HPの「ご意見募集」等に提出した意見

 テーマ 】

財務省も含めて「組織対応」を強化しても、万博パビリオン建設契約締結促進には効きません。

 

 【 意見 】

令和5年8月31日付の日経電子版記事(大阪万博、政府主導で推進 岸田首相「準備状況厳しい」)によれば、「首相は閣僚に海外パビリオン建設の契約締結に取り組むよう指示した。財務省と経産省の局長級幹部を現地に派遣する方針も示した。」とのことです。海外パビリオン建設契約締結の促進に向けて、これまでの「組織対応」、つまり、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会を主体として経済産業省と国土交通省が支える形の「組織対応」では十分ではなかったとして、首相のご指示で財務省も加えた「組織対応」体制の強化が図られたと拝察します。

 

しかし、契約の締結は、民法に則り、発注者と受注者が対等の立場で信義誠実の原則に基づき、「誰が誰に」、「何を」、「いつまでに」、「いくらで」、「どうするか」の5点について、発注者と受注者の双方が十分に納得した上で契約書に署名捺印すればよいことです。そこで、契約の当事者である発注者と受注者を「組織対応」で支えるべきことは、前記の5点の内の、「何を」、「いつまでに」、「どうするか」の3点についての合意内容が齟齬無く明確なものとなるように助言すること(つまり、契約書に編綴される発注書の簡潔明瞭かつ必要十分な書き方を助言すること)です。

 

それゆえ、海外パビリオン建設契約締結の促進に向けた「組織対応」として、これまでどおりの考え方や取組み方の延長線上で、海外に類を見ない(つまり、我が国でしか通用しない)設計・施工分離発注方式を前提とした契約締結促進を図った場合には、促進どころか、足を引っ張りかねません。その悪しき前例が、政府出展パビリオン「日本館」です。令和5年7月21日付の日経電子版記事「大阪万博日本館、清水建設が76億円で受注 随意契約」によれば、「日本館」の建設契約は、入札不成立が明らかになった後も設計・施工分離発注方式に拘り続けた挙げ句の果てに、とても他の模範にはできない随意契約により締結されています。

 

このため、海外パビリオン建設契約締結の促進に向けて、名実ともに首相をトップとする「組織対応」で今直ぐにすべきことは、海外パビリオン建設契約を迅速かつ的確に締結した成功事例としてのイタリア館の発注方法(つまり、グローバルスタンダードなデザインビルド方式)を、契約締結が滞っている国の発注者に推薦するとともに、我が国の建設事業者が一読すれば要求要件(つまり、「何を」、「いつまでに」、「どうするか」の3点)の全体が掴める発注書の書き方を助言することです。

 

ちなみに、新国立競技場整備事業の成功までの紆余曲折を、ここで説明致します。設計・施工分離発注方式に拘り2年半にわたって推進された「当初の新国立競技場整備計画」は、独立行政法人日本スポーツ振興センターを主体として文部科学省と国土交通省が支える形の「組織対応」でしたが、結果として工事費試算額の高騰を抑えることができず、2015年7月に、当時の安倍首相により白紙撤回されました。この時点で、東京オリンピック開会式(2020年7月に予定)までの残り年数が5年を切っていたことから、新国立競技場の新設整備を開会式に間に合わせるには、工期短縮に向けた技術提案を求めた上で設計と施工を一貫して行う方式(つまり、プロポーザルデザインビルド方式)に直ちに切り替える他にはない状況でした。かくも切羽詰まった困難な状況でしたが、「新国立競技場整備事業 業務要求水準書」と称する発注書を1ヶ月程で作成して受託事業者を迅速に選定した結果、2019年11月に新国立競技場は、当初予定した工期と工事費の範囲内で何の滞りも無く完成しました。このことは、2015年7月の安倍首相によるご英断の賜物であり、このご英断が無ければ、あるいは、ご英断が半年ほど遅れたならば、新国立競技場整備事業は困難な状況を脱しえなかったと推察されます。

 

最後になりますが、投稿者は、2001年から2011年にかけて、工事発注の元締め(つまり、契約書上の「甲」)として、土木・建築工事を含む数百件の警察情報通信システム整備事業の全てを、設計・施工一括発注方式により実施しました。この間に、会計検査院の会計実地検査を4回受検しましたが、いずれも「適正に経理されている」旨の講評を受けております。また、設計・施工分離発注方式で入札不成立となった幾つもの発注案件を、直ちに設計・施工一括発注方式に切り替えて、1週間から1ヶ月程で契約締結に至った経験と実績もあります。このような成功の鍵は常に、建設事業者が一読すれば要求要件(つまり、「何を」、「いつまでに」、「どうするか」の3点)の全体を掴める発注書を作成したことでした。

 

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令和5年8月29日、首相官邸・経済産業省・国土交通省・大阪府

・大阪市の各HPの「ご意見募集」等に提出した意見

 テーマ 】

万博パビリオンの建設促進には、イタリア館をモデルとしたデザインビルド方式が最適です。

 

 【 意見 】

2025年大阪万博イタリア館コミッショナージェネラル公式サイトに2023年8月14日に掲載された記事等によれば、イタリア館は、マリオ・クチネッラ建築設計事務所の建築デザインが選定され、これに基づき、発注元であるイタリア館コミッショナージェネラルと、マリオ・クチネッラ建築設計事務所との間で、デザインビルド方式(別途に選定した建築デザインに基づく詳細設計付き施工発注方式)によるパビリオン建築契約を締結しています。この契約の履行に向けて、マリオ・クチネッラ建築設計事務所では、詳細設計と施工を共に担う企業グループ(マリオ・クチネッラ建築設計事務所が元請ですから、下請に相当します。この下請グループの参加メンバーは、西尾レントオール株式会社、公成建設株式会社、株式会社乃村工藝社、松田仁樹建築設計事務所、Beyond Limits、Milan Ingegneria Spa、Tekser Srl、Zeranta Edutainment Srl、Gae Engineering Srlなどですから、国内のゼネコンは見当たりません。)を構成しています。

 

イタリア館のこのような発注方法は、欧米諸国では普遍的なデザインビルド方式ですが、万博パビリオン建築を巡る今日の諸般の状況(資材価格の高騰や、働き方改革関連法による労働時間の制約など)に照らしてみれば、選定したデザインそのままのパビリオンを、当初確保した予算の範囲内で契約した金額により、契約で取り決めた期日までに完成させる上で、最も合理的かつ堅実な方法と言えます。なぜならば、マリオ・クチネッラ建築設計事務所とその企業グループが詳細設計と施工を実施するにあたり、設計段階でも施工段階でも常に創意工夫を働かせて、使用する資材や工法を最適化(つまり、三つ巴の相反関係にある「スペック」と「工事費」と「工期」を全体最適化)することができるからです。

 

ここで、大阪関西万博の政府出展パビリオン「日本館」に目を移しますと、「日本館」の建設工事の入札は、我が国では普遍的ですが他国には類を見ない設計・施工分離発注方式(工事仕様書として確定した詳細仕様に基づき、緻密な積算により予定価格を策定した上で、施工事業者を選定して発注する方式)でした。

 

ところが、令和5年7月21日付の日経電子版記事「大阪万博日本館、清水建設が76億円で受注 随意契約」によれば、「日本館」の建設工事(今年1月24日公告・5月11日期限の入札に応札した事業者の入札価格が予定価格を上回っていたため不成立となっていた。)について、発注元の国交省近畿地方整備局は7月21日、当初の予定価格を約9億円上回る約76億円で、清水建設と随意契約を締結した旨が報道されています。これに加えて、今後、「日本館」のデザインや設計を簡素化していく旨も報道されています。

 

ここで、危惧されることが2点あります。1点目は、契約金額の約76億円が、どのようなデザインや設計に基づいた施工結果(竣工後の「日本館」)への対価であるのか、全く判然としない随意契約を締結してしまったことです。これでは、会計関係法令の規定(特に、予算決算及び会計令の第九十九条と第九十九条の二)との整合性が大きな問題となります。

 

次に、危惧されることの2点目ですが、随意契約締結後に「日本館」のデザインや設計を簡素化していくのであれば、既に出来上がっていた詳細設計は使えなくなりますので、簡素化後のデザインが確定した後に、そのデザインに基づいて詳細設計を作り直すことになります。詳細設計が確定しなければ建築確認申請ができませんので、「日本館」の随意契約は、契約締結を促進することができたかもしれませんが、建築確認申請を逆に遅らせてしまう恐れがあると言えます。

 

それゆえ、タラレバの話となってしまいますが、「日本館」の建設に向けた発注手続きについて、設計・施工分離発注方式のままでは入札成立が困難であることが判明した時点で、速やかに上記のイタリア館のようなデザインビルド方式に切り替えていたならば、オリジナルデザインのまま完成させることができたのではないかと思います。また、予算決算及び会計令の規定との整合が難しい随意契約を締結する必要性は全く無かったように思います。

 

このため、契約締結が未だ滞っている国内外のパビリオンについては、設計・施工分離発注方式を前提とした契約締結を促進するのではなく、イタリア館をモデルとしたデザインビルド方式を前提とした契約締結を促進することが強く望まれるところです。

 

【 上記意見を財務省にも提出しました。

◯ 令和5年8月31日、財務省のホームページの意見受付コーナーを通じて、上記と全く同じ内容の意見を提出しました。

 

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令和5年7月24日、東京都のホームページの

「知事への提言」に提出した提言

 タイトル 】

東京都は、仕様発注方式に固執して緻密かつ詳細な積算による予定価格の策定を続けていますが、些細な積算ミスに起因する契約上の大トラブルが頻発しています。

 

 【 コメント 】

東京都が実施する工事は、他国に類を見ない我が国独自の仕様発注方式(詳細仕様を確定させた工事仕様書に基づいて、緻密な積算により予定価格を策定した上で、施工を発注する方式)で発注しています。「設計・施工の分離の原則」を絶対視しなければならないといった勘違いと、「予定価格は、確定した詳細仕様に基づく緻密な積算に依るものでなければ法令上の規定に反する」といった勘違いが、都に浸透しているからです。その結果、グローバルスタンダードな性能発注方式(実現を求める要求要件を規定した要求水準書に基づいて、見積書の徴収・査定により予定価格を策定した上で、設計と施工を一括発注する方式であり、我が国でも、民営化を主眼とする公共事業や包括的民間委託による公共事業では既に必須となっている発注方式)の活用が、全く忌避されています。

その結果、都では、緻密かつ詳細な積算による予定価格の策定を昭和30年代から続けていますが、このところ、些細な積算ミスに起因する契約上の大トラブルが都で頻発しています。直近では、「契約事務における予定価格の誤りについて」として、東京都建設局が令和5年7月20日に報道発表した次の2件があります。

1件目

令和5年7月14日に契約を締結した工事件名「道路施設整備工事(5南西の2)道路照明補修」において、39,372,300円とした予定価格の算出にあたり、発生材売却費の入力を誤ったため、予定価格が約14万円過大となっていた。この誤りは、契約締結後に設計内容について外部からの質問があり、都で精査したところ判明したものである。今後の対応として、都は、契約を締結した相手方と契約解除に向けて協議中であり、契約解除の手続きを行った上で本件工事を再発注する予定としている。再発防止策として、算出の誤りの原因、経緯を精査し、再度同様の事象がないよう、照査体制を強化するなど適正な積算の徹底を図るとしている。

2件目

令和4年12月9日に契約を締結した工事件名「善福寺川緑地休憩舎改築工事その2」において、51,063,100円とした予定価格の算出にあたり、直接工事費の算定時に休憩舎基礎等のコンクリートについて本来68立方メートルとすべきところを、高さ(厚さ)の計算を誤ったため121立方メートルとしてしまい、予定価格が約127万円過大となっていた。この誤りは、契約締結後に都の職員が設計内容について確認したところ判明したものである。今後の対応として、本件は、正しい予定価格の場合、他の入札者が受注する可能性があったが、工事が最終工程に至っていることから、都は、受注者及び入札をした他の者に説明し了解を得たので工事を継続するとしている。再発防止策として、算出の誤りの原因、経緯を精査し、再度同様の事象がないよう、照査体制を強化するなど適正な積算の徹底を図るとしている。

さて、都は、上記2件の積算ミスの再発防止策として、いずれも、「算出の誤りの原因、経緯を精査し、再度同様の事象がないよう、照査体制を強化するなど適正な積算の徹底を図る」としています。しかし、積算ミスに対する都としてのこのような再発防止策は、何年も前から積算ミスが発生する都度、都が表明し続けてきたことですが、今回も2件の積算ミスが明らかとなったことから、都の再発防止策には防止効果が全く期待できないと言えます。さらに大きな問題として、このような再発防止策のもとで「緻密な積算による予定価格の策定」をこれからも続けていった場合には、都の職員は、担当する工事の意義・目的を踏まえた費用対効果の最大化に注意を払うのではなく、緻密な積算における枝葉末節的な正確性にばかり注意を払うよう強いられてしまいます。これでは、発注しようとする工事の意義・目的に照らして、まさに本末転倒と言えます。

このことから、都は、グローバルスタンダードな発注方式であるとともに、民営化を主眼とする公共事業や包括的民間委託による公共事業では既に必須となっている性能発注方式について、公設公営事業分野への導入を真剣に検討するべきです。なぜならば、性能発注方式では、発注者としての工事の意義・目的をしっかりと踏まえた上で、受注者が設計と施工を行う上で必要十分となるように要求要件を示した要求水準書を作成するからです。また、性能発注方式における予定価格は、要求水準書に基づき業者から徴収した見積書の査定により策定するため、積算ミスは本質的にあり得ないからです。

これまで仕様発注方式としてきた公設公営事業の発注を性能発注方式に切り替えていく上でのモデル事例は、新国立競技場整備事業です。工事規模の大小に関わらず、性能発注方式の基本的な取組み方や考え方は同じですから、新国立競技場整備事業は、理想的な要求水準書を作成する上でのモデル事例であり、要求水準書に基づく業者見積もりの査定により予定価格を策定する上でのモデル事例となります。

以上を「知事への提言」として具申致します。 

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令和5年6月22日、首相官邸と国土交通省と経済産業省の

各ホームページの「ご意見募集」等に提出した意見

 テーマ 】

 「万博日本館入札不成立 政府 随意契約に切り替え」には、予算決算及び会計令における規定上の問題があります。

 

 【 意見 】

令和5年6月21日付の読売新聞朝刊記事「万博日本館入札不成立 政府 随意契約に切り替え」によれば、2025年大阪・関西万博に政府が出展するパビリオン「日本館」の建設工事(発注元は国土交通省近畿地方整備局で、当初は今年6月中旬の着工を予定)について、応札者の入札価格が予定価格を上回っていたため入札不成立となっていた。そこで、政府は、万博開幕までに完成できない恐れがあるとして手続きに時間のかかる再入札を見送り、任意に建設事業者を選ぶ随意契約に切り替える、とのことが報道されています。

ここで、国の契約手続きについては、会計法と予算決算及び会計令に規定されていますが、上記のような入札不成立に伴う随意契約については、予算決算及び会計令の第九十九条の二に次の規定があります。【第九十九条の二 契約担当官等は、競争に付しても入札者がないとき、又は再度の入札をしても落札者がないときは、随意契約によることができる。この場合においては、契約保証金及び履行期限を除くほか、最初競争に付するときに定めた予定価格その他の条件を変更することができない。】。また、予算決算及び会計令の第九十九条には、随意契約によることができる場合として25の項目が列挙されていますが、この中に「競争入札に付した場合に目的とする期限までに間に合わないとき」に該当する項目はありません。このことから、政府が実施しようとしている「再入札を見送って随意契約に切り替える」といった手続きは、予算決算及び会計令の規定とは整合しません。

ところで、上記の問題の根源は、確定した詳細仕様に基づき緻密な積算で予定価格を策定する「我が国独自の仕様発注方式」にあります。建築分野における仕様発注方式では、別途に選定した建築デザインに基づき、使用する資材や工法を工事仕様書で詳細に規定するため、受注した建設事業者の裁量の余地はありません。また、予定価格策定時の資材価格は、一般財団法人建設物価調査会が毎月刊行する「建設物価」に基づきます。このため、予定価格策定後に資材価格の上昇が見込まれたとしても、その上昇リスク分を予定価格に反映させることはできません。このように、上記の問題の根源は、仕様発注方式における予定価格の策定方法そのものが、建設事業者にとって、また、我が国にとって、何のメリットも無いことであると言えます。

ここで視点を変えますと、米国での官公庁発注(建築工事の場合には別途に選定した建築デザインに基づくデザインビルド)は、プロポーザルとネゴシエーションを基本とする発注方式(我が国の品確法第18条に規定された「技術提案の審査及び価格等の交渉による方式」とほぼ同義の性能発注方式)であるため、上記のような問題が生じる恐れは全くありません。性能発注方式を用いる場合には、確定した詳細仕様に基づき緻密な積算で予定価格を策定することなど、そもそも不可能です。それゆえ、性能発注方式における予定価格は、要求要件を必要十分に示した要求水準書に基づく業者見積もりの徴収・査定に依ることとなります。このことから、性能発注方式では、使用する資材や工法は、要求要件を満たす限り建設事業者の裁量で決めることができます。このため、資材価格の大幅な上昇が見込まれる場合であっても、建設事業者は、その上昇リスク分を見積価格や入札価格に予め反映できる上に、最先端技術の活用や創意工夫により使用する資材や工法を最適化することも可能です。

最後のまとめになりますが、上記のような問題が今後生じないようにするためには、他国に類を見ない我が国独自のガラパゴス的な仕様発注方式の考え方や取組み方から一刻も早く脱却する必要があります。これには、グローバルスタンダードな性能発注方式を良く理解して適切に用いていくことができるよう、我が国における官公庁発注の考え方や取組み方を抜本的に改めていくことが喫緊の課題であると言えます。

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令和5年6月16日、首相官邸と経済産業省と国土交通省の

各ホームページの「ご意見募集」等に提出した意見

 テーマ 】

三菱スペースジェット開発失敗の根源的要因は、経済産業省と国土交通省と三菱重工業のいずれも、性能発注方式の取組み方ができなかったこと

 

 【 意見 】

令和5年6月7日付の読売新聞朝刊記事「MSJ開発撤退 要因検証へ」によれば、経済産業省は6月6日、航空機産業の課題と戦略を検討する有識者会議の初会合を開催して、三菱重工業が三菱スペースジェット(MSJ)の開発から撤退した要因を検証した上で、今後の成長戦略を今年度内に取りまとめるとのことです。ところで、MSJの開発に失敗した根源的な要因は、経済産業省と国土交通省と三菱重工業のいずれも、下記にそれぞれ記載のとおり、性能発注方式の取組み方ができなかったことです。性能発注方式の取組み方はグローバルスタンダードであり、欧米における今日の型式証明取得プロセスでは欠かせない取組み方です。しかし、我が国では、他国に類を見ない仕様発注方式の取組み方が「暗黙の常識」となっていますので、性能発注方式の取組み方にはどこも殆ど馴染みが無く、性能発注方式の概念すらよく分かっていないのが実情です。このままでは、今後の成長戦略を「机上の空論」にしかねませんので、非常に危惧されるところです。

 

【経済産業省】 経済産業省は、2003年に「環境適応型高性能小型航空機」の開発プロジェクト(2003年度から2007年度までの5ヵ年計画であり、この間に約百億円の国費が投入された。)を立ち上げた際に、性能発注方式の取組み方であれば基本中の基本である「ニーズとシーズのベストマッチングを図ること」を、なおざりにしてしまった。つまり、小型航空機の市場動向(ニーズ)と最先端の技術動向(シーズ)を真摯に調査しないまま、「(シーズとしての)炭素繊維複合材を多用した、(ニーズとしての)30〜50席クラスの小型ジェット旅客機」を、プロジェクトの開発目標として設定してしまった。結果として、プロジェクトの開発目標は、ニーズとシーズのいずれも、プロジェクトの進展につれて大きく揺らぐこととなった。つまり、2005年には、ニーズとしての座席数が30〜50席クラスから70〜90席クラスへと大幅に変更され、2009年には、シーズとしての機体の主材料が炭素繊維複合材からアルミニウム合金へと抜本的に変更された。このように、基礎設計の前提となる条件が2度にわたって大修正を余儀無くされたことから、MSJは、その生い立ちから迷走気味だったと言える。

 

【国土交通省】 国土交通省は、経済産業省のプロジェクトで新たに開発する小型ジェット旅客機の型式証明の実務を担う航空機技術審査センターを、県営名古屋空港内に2004年に設立した。設立当初は、所長以下6名の体制であったが、後に、航空機の専門知識を有する人材の中途採用や防衛省・JAXAからの出向により、73名の体制にまで拡充した。しかし、1960年代にYS-11やMU-2の型式証明の実務を担った人材は皆無であり、また、FAA(米連邦航空局)における今日の型式証明の実務についての理解者も皆無であった。さらに、2012年には所長が交代している。これでは、「トップダウンにより全体最適化を図る」といった米国流の「性能発注方式の取組み方による審査」は望むべくもなく、「組織対応」と称して専門分野ごとのボトムアップによる部分最適化を図るといった「仕様発注方式の取組み方による審査」に終始せざるをえないところである。次に、国土交通省は、型式証明プロセスのスタートを規定する「安全性を確保するための強度、構造及び性能についての基準」と「型式証明申請書」(いずれも航空法施行規則に規定)について、1960年代の記載内容から殆ど変えていないことも禍根を残している。これでは、型式証明の申請者(三菱重工業)が、1960年代と同様にハードウェアの設計図書の審査と飛行試験が中心になると捉えてしまったとしても無理はないところである。

 

【三菱重工業】 三菱重工業は、2008年にMSJの事業化を決定して、2023年にその開発中止を決定するまでの15年間に、開発の中心となる三菱航空機のチーフエンジニアを3回(2012年、2018年、2020年)も交代させている。これでは、チーフエンジニアによるトップダウンで全体最適化を図る開発体制など望むべくもなく、チーフエンジニアの主たる役割は、専門分野ごとのボトムアップによる部分最適化を旨とする「組織対応」のコーディネーターに過ぎなくなる。しかし、このような「組織対応」では、耐空性審査要領に記載された個々の技術的要件に個々の設計を合致させていくアプローチに終始してしまうため、耐空性審査要領では想定外の新技術を開発して設計に取り入れていくことは極めて困難である。また、今日の航空機で多用されているソフトウェアによる制御機能の信頼性を証明することも困難である。このことが、MSJの試験飛行に成功した後、7年経っても型式証明が取得できなかった最大の要因と言える。

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令和5年4月15日、首相官邸と経済産業省と国土交通省の

各ホームページの「ご意見募集」等に提出した意見

 テーマ 】

我が国製造業の活力を取り戻すには、性能発注方式の取組み方を零戦に学び直して実践することが必要です。

 

 【 意見 】

 2023年2月7日、三菱重工業は、約1兆円を投じた国産ジェット旅客機MSJ(旧名はMRJ)の開発を中止すると発表しました。2003年度に経済産業省のプロジェクトとして研究開発がスタートし、2011年度までに約500億円の国費も投入されて開発が進められ、2015年には初飛行に成功していたにもかかわらずです。商用運航に欠かせない国土交通大臣の型式証明を取得できる目処が立たなくなったためです。

 ここで、型式証明取得に向けたプロセスについてですが、型式証明の申請者と航空当局との間で、申請された機体の安全性を確保するための要件(つまり、性能要件です。)を確定した上で、その要件への適合性を証明するための手法について合意し、その手法に従って適合性の審査を設計過程と製造過程にわたって進めるのです。これには、性能発注方式の取組み方(つまり、トレードオフ関係にある性能要件間の全体最適化をトップダウンで図る取組み方)で設計を行いつつ審査を受ける必要があります。

 ところが、MSJでは、このようなプロセスを経ないままに設計され1号機が製造されてしまいました。半世紀以上前のYS-11の型式証明は、詳細設計図面の審査と実機の飛行試験結果に基づき取得できていたので、MSJでも同様の取得プロセスを前提としてしまったようです。YS-11では、ソフトウェアによる制御機能は皆無でしたので、機体の安全性はメカニカルな詳細設計図面の審査と実機の飛行試験結果から判定できたと言えます。他方、MSJでは、フライバイワイヤーなど、多くの制御機能がソフトウェアで実現しています。ソフトウェアは直接目にすることができませんので、メカニカルな詳細設計図面を徹底的に審査してみても、ソフトウェアで実現している機能・性能やその信頼性は全く判定できないのです。このことが、MSJの型式証明を取得できる目処が立たなくなった最大の原因です。

 つまり、MSJの開発失敗により我が国の基幹産業育成の夢が潰えてしまったことの根源にある問題点は、MSJの直接的な関係者である三菱重工業、経済産業省、国土交通省のいずれも、欧米諸国では常識となっている性能発注方式の取組み方が全く分かっていなかったことです。実際のところ、我が国の製造業分野の企業で、性能発注方式の取組み方が分かっていて実践しているところは見当たりません。昭和34年1月に発出された建設事務次官通達を端緒とする仕様発注方式(つまり、詳細仕様を確定させた設計図面に基づき製造や施工を求める方式であり、ボトムアップによる部分最適化が基本です。)が、土木・建築工事の分野のみならず各種製造請負の分野にも瞬く間に波及して今日に至っているからです。このため、他国に類を見ないガラパゴス的な仕様発注方式の取組み方が、我が国ではあらゆる分野において「常識」となってしまっているのです。

 ここで、製造業の分野において特に危惧されることは、これからはハードウェアがコモディティ化してソフトウェアが機能・性能を大きく左右するようになっていくことです。ハードウェアは、詳細設計を示す仕様発注方式の取組み方(つまり、「この通りに作ってくれ」といった取組み方)で出来ますが、ソフトウェアは、性能要件を示す性能発注方式の取組み方(つまり、「このようなものを作ってくれ」といった取組み方)でなければ対処できません。この点についての無理解が、これからの我が国の足を引っ張り続けること必定です。

 我が国の製造業にとっての不幸は、性能発注方式の取組み方で大成功した事例、つまり、モデルとすべき理想的な取組み事例が戦後の国内には無いことです。そこで、戦前にまで目を向けますと、性能発注方式の取組み方で大成功した零戦に辿り着きます。零戦が成功した秘訣は二つです。すなわち、発注者である旧日本海軍が部内開発会議で検討を重ねて「ニーズとシーズをベストマッチング」した結果をたった1枚の計画要求書にまとめ上げたことと、受注者である三菱重工業では堀越二郎設計主務が「トップダウンによる全体最適化」を達成したことです。MSJの開発失敗を見る限り、三菱重工業ですら、零戦の成功体験を見失ってしまっているようです。

 それゆえ、欧米諸国では常識となっている性能発注方式の真髄、つまり、発注者側における「ニーズとシーズのベストマッチング」と受注者側における「トップダウンによる全体最適化」を達成する上での極意を、零戦の開発プロセスに一刻も早く学び直すことが、我が国の製造業における活力を取り戻す大きな切り札となります。

 以上を、意見として具申致します。

 

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令和5年4月1日、首相官邸と総務省と国土交通省の

各ホームページの「ご意見募集」等に提出した意見

 テーマ 】

性能発注方式は性能規定発注方式として殊更に難しく捉えると逆に失敗します。

 

 【 意見 】

 製造業等の企業や自治体では、これまでのほぼ丸投げに近い仕様発注方式から欧米流の性能発注方式に切り替えていこうとする動きが見られます。しかし、このような動きの中で常に問題となるのが要求水準書、つまり、性能発注方式における発注書の作り方がよく分からないということです。詳細スペックを規定する発注方式(仕様発注方式)から性能を詳細に規定する発注方式(性能規定発注方式)への切り替えとして捉えてしまった場合には、どのように性能を規定したら良いのか分からないとして匙を投げてしまうことになります。このように、性能発注方式は、性能規定発注方式として殊更に難しく捉えると逆に失敗します。

 それではどうすれば良いのか、についてですが、受注者側に対して、「このようなものを作って欲しい。」といった「要求要件」を、受注者側が設計・製造する上で必要十分となるように簡潔明瞭に箇条書きすれば、それだけで理想的な要求水準書が出来上がるのです。自宅を新築する場合を思い浮かべてみれば、このことが分かりやすいと思います。自宅新築時には、次のように、誰でもごく自然に性能発注方式の取組み方で発注しているからです。

 自宅新築時には、設計・施工を依頼したい建設業者に、「希望」を伝えるところから始まります。具体的には、「このような立地条件でこのような広さの土地に住宅を建てたい。坪数はこれ位にしたい。二階建ての洋風でクラシックな感じにしたい。二階にはバルコニーを設けたい。明るくて開放的なリビングにしたい。玄関は南向きにしたい。大きな地震に耐えられるようにしたい。2台分の車庫を設けたい。・・・」などの「希望」を伝えます。建設業者は、このような「希望」に基づいて詳細設計を行い、施工図面を作成します。詳細設計を行う上で、まだ不足するところについては、「ここはどうしたいですか?」と、建設業者はさらに「希望」を聴いてきます。実は、発注者としてのこのような「希望」を必要十分に箇条書きにしたものが、性能発注方式における発注書(要求水準書)なのです。ここで、「二階にバルコニーを設けること」は、有るか無いかを規定する「機能要件」です。また、「大きな地震に耐えられるようにすること」は、どの程度かを規定する「性能要件」です。このように、性能発注方式で用いる要求水準書には、決まった様式は無く、その作成を難しく考える必要もありません。受注業者に実現してもらいたい目標をしっかりとイメージして、つまり、コンセプトを明確にして、「このようなものを創り上げて欲しい。」ということを、受注業者に分かりやすく伝える工夫が最も重要となります。

 このように、我が国でも一般人が自宅を新築する場合には、誰でもごく自然に性能発注方式を実践しているのです。つまり、必要に迫られた場合に常識的に対処すれば、誰でも性能発注方式を効果的に実践することができると言えます。

 以上を、意見として具申致します。

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令和5年3月31日、首相官邸と文部科学省の

各ホームページの「ご意見募集」等に提出した意見

 テーマ 】

欧米諸国では常識となっている性能発注方式の真髄を、戦前の零戦の開発プロセスに学び直すことが、我が国の活力を取り戻す大きな切り札となります。

 

 【 意見 】

 3月7日のH3ロケット打ち上げ失敗は、我が国の宇宙開発に取り返しがつかない程の痛手を負わせてしまいました。JAXAは三菱重工にH3の開発から製造までを委託(欧米の常識からすれば、受注者に委ねるべき設計には発注者は立ち入らない「真の性能発注方式」で委託するところです。)していますが、ロケットエンジンについては従前通りにJAXAが開発と設計を行っており、その製造を三菱重工に委ねています。

 零戦の後継機「烈風」は、零戦と同様の性能発注方式で開発から製造までを旧日本海軍が三菱重工に委託したのですが、旧日本海軍は、三菱重工に委ねるべき設計(空戦性能に関わる発動機出力と翼面荷重)に立ち入ってしまいました。その結果、三菱重工は海軍から求められた性能要件を全て満たす(つまり、全体最適化です。)ことが困難となり、開発は失敗(海軍は開発計画を破棄)してしまいました。国運をも左右したと言えるこの教訓が、今日の我が国ではJAXAを含めて全く顧みられていないと思います。

 また、今日ではロケットの信頼性に関わる制御機能をソフトウェアで実現しています。しかし、JAXAは、ロケットや人工衛星の製造発注に先立ち、東大宇宙航空研究所由来の「設計審査会」でメカニカルな詳細設計を審査していますが、目に見えないソフトウェアについてはその機能、性能や信頼性を設計審査会で審査することなど不可能です。

 7年前の話ですが、NASA等との国際協力ミッションであったX線天文衛星「ひとみ」は、設計審査会を通った設計図面に基づきNECが製造して打ち上げられたのですが、ソフトウェアのバグ(短時間の「フリーズ」です。)とデータの誤入力(絶対値とすべきところをマイナス記号を付けたままとしたことです。)が主因となり、衛星軌道上で異常な高速回転を起こしてバラバラに分解してしまいました。ところが、この「ひとみ」の大失敗の元凶となった設計審査会での審査のあり方について、JAXAは全く見直すことなく今日でも従前通りに踏襲してしまっているようです。H3の2段目のロケットエンジンの制御もソフトウェア抜きでは考えられませんので、ソフトウェアについての審査ができないJAXAの設計審査会では、今日のロケットの信頼性や安全性についての審査ができていないと言っても過言ではないと思います。

 話を更に拡げますと、戦後の我が国では、製造業の分野でも仕様発注方式の取組み方(つまり、ボトムアップによる部分最適化を図る取組み方)しかできなくなっているため、三菱重工が1兆円を投じて開発した旅客機MSJ(旧名はMRJ)は革新的技術を産むこと無く完全に失敗し、JAXAと三菱重工が共同開発したH3ロケットも失敗してしまいました。三菱重工は、戦前に性能発注方式の取組み方(つまり、トップダウンにより全体最適化を図る取組み方)で大成功した零戦の開発経験を全く見失ってしまったのではないでしょうか。

 我が国では、公共工事の分野でも、性能発注方式による成功事例は「新国立競技場」の他には見当たらないところですが、製造業の分野では、性能発注方式による成功事例は何一つとして見当たりません。ここで、特に危惧されることは、これからはハードウェアがコモディティ化してソフトウェアが機能・性能を大きく左右するようになっていくことです。ハードウェアは、仕様発注方式の取組み方で出来ますが、ソフトウェアは、性能発注方式の取組み方でなければ対処できません。この点についての無理解が、これからの我が国の足を引っ張り続けること必定と思います。

 そこで、欧米諸国では常識となっている性能発注方式の真髄、つまり、発注者側における「ニーズとシーズのベストマッチング」と受注者側における「トップダウンによる全体最適化」を達成する上での極意を、零戦の開発プロセスに一刻も早く学び直すことが、我が国の活力を取り戻す大きな切り札となります。

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令和5年3月、全国の全自治体に提言を提出しました。

 タイトル 】

仕様発注方式は資材価格上昇に対処困難であり、各地の自治体で建設工事の入札不成立が多発しています。

 

 【 提言 】

 令和5年2月6日付の日経電子版記事「公共インフラ着工できない 物価高で入札不成立」によれば、自治体施設の建設工事の入札不成立が全国で相次いでいます。資材価格が上昇しているため、入札に先立ち自治体が設定した予定価格では、応札しようとする業者の採算がとれなくなる恐れがあることが共通の原因です。また、令和5年2月4日付の日経電子版記事「大阪万博、背を向けるゼネコン 採算低下で入札不成立」によれば、万博会場建設工事の予定価格設定後に資材価格が上昇したため、昨年6月以降に実施した21件の入札の内の10件が不成立に終わっています。

 上記の入札不成立案件は、いずれも仕様発注方式(設計と施工を分離して発注する方式であり、施工発注時の予定価格は、工事仕様書に基づく緻密な積算により策定)です。仕様発注方式では、使用する資材や工法は工事仕様書で詳細に規定しているため、施工受注者の裁量の余地はありません。また、予定価格策定時の資材価格は、一般財団法人建設物価調査会が毎月刊行する「建設物価」に基づきます。このため、予定価格設定後に資材価格の上昇が見込まれたとしても、その上昇リスク分を予定価格に反映させることはできません。従って、仕様発注方式では、資材価格の上昇に打つ手が無いと言えます。

 ところで、欧米諸国での建設工事の発注は、規模の大小を問わず性能発注方式(設計と施工を一括して発注する方式であり、発注時の予定価格は、要求要件を示した要求水準書に基づく業者見積の徴収・査定により策定)です。性能発注方式では、使用する資材や工法は、要求要件を満たす限り受注者の裁量で決める(承認図書で発注者の承認を得る必要)ことができます。このため、資材価格の上昇が見込まれる場合には、受注希望業者は、その上昇リスク分を見積価格や入札価格に反映できる上に、最先端技術の活用や創意工夫により使用する資材や工法の最適化ができます。

 我が国では、新国立競技場整備事業が、性能発注方式で成功した唯一の公設公営事業です。新国立競技場は、仕様発注方式による整備に向けて2年半もの設計委託期間と60億円余りの設計委託費を費やした挙句に、工事費試算額の高騰により事業計画全体が白紙撤回され破綻しました。しかし、その翌月には性能発注方式で蘇り、外部委託せずに1ヶ月ほどで作成した要求水準書に基づき、業者選定、設計、施工の各プロセスが滞り無く進み、当初の予定どおりに新国立競技場は完成したのです。

 我が国では、仕様発注方式による失敗を仕様発注方式の手直しで克服しようとしてきましたが、成功事例は殆ど見られません。新国立競技場整備事業は、仕様発注方式による失敗を性能発注方式に切り替えて克服できた初の事例です。このことから、資材価格上昇等により仕様発注方式では失敗しそうな場合には、最初から性能発注方式とすることが望まれます。

 問題は、我が国の自治体では、性能発注方式の実践経験が殆ど無いことです。加えて、多くの自治体では、性能発注方式を「性能規定発注方式」として殊更に難しく捉えてしまっています。しかし、性能発注方式を難しく考える必要は無いのです。

 なぜならば、どの自治体でも設計委託発注時には、性能発注方式の取組み方だからです。仮に、仕様発注方式の取組み方であれば「このとおりに設計してくれ」となりますが、これは極めて不自然であり得ないことです。そこで、実際には、「このようなものを設計して欲しい」といった要求要件を暗示的に設計業者に伝えています。これらは要求要件ですから、明示的に纏めれば紛れもない要求水準書となります。このような要求水準書を用いれば、設計委託発注時に、複数業者による価格と技術の両面での競争原理が働くようになります。

 さらに一歩進んで、「このようなものを設計して欲しい」とした要求要件を、「このようなものを作って欲しい」に修正するだけで、自治体が性能発注方式で設計・施工一括発注するための要求水準書となるのです。

 最後になりますが、自治体が設計・施工一括発注する際の対象業者は、設計能力を有する施工業者に限る必要は無く、従前から設計を請け負ってきた設計専門業者も対象にできます。設計専門業者が受注した場合の施工については、設計専門業者と付き合いのある地元の施工専門業者に下請(事前に書面による発注者の承認が必要)させれば良いからです。設計能力を有しない地元の施工専門業者についても同様(設計については書面による発注者の承認を得て設計専門業者に下請)です。

 以上を、ご回答不要の提言として◯◯◯に具申しますので、真摯なご検討を賜れば幸甚に存じます。◯◯◯には提言先の自治体名が入ります。)

 

【 上記意見を首相官邸、総務省、国土交通省にも提出しました。

 ◯ 令和5年2月23日、首相官邸、総務省、国土交通省の各ホームページの「意見受付コーナー」を通じて、上記と同内容の意見を提出しました。

 

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令和5年2月、全国の全自治体に提言を提出しました。

 タイトル 】

◯◯◯の小規模工事(老朽インフラ補修工事、道路補修工事、水道管更新工事)こそ、性能発注方式が最適です。◯◯◯には提言先の自治体名が入ります。)

 

 【 提言 】

令和4年12月7日のNHK「おはよう日本」では、老朽インフラ点検で早急な補修が必要と判断された後、自治体の財政難や人材不足により、5年を超えても未補修のままの橋やトンネルが全国に7千箇所余りあると報道されました。建設後50年超の老朽橋の割合が現在の約3割から10年後には約6割に倍増することや、老朽インフラ対策は特に小規模の自治体で予算や人員が厳しいため十分に進んでいないと国土交通省が認識していることも報道されました。

しかし、自治体の人材不足解消の見込みは無いため、自治体の補修工事発注業務を効率化しない限り、未補修のままの老朽インフラは増加の一途を辿ります。それゆえ、老朽インフラ対策で喫緊の課題は、補修工事発注業務の効率化です。

ところで、自治体の老朽インフラ補修工事は、道路補修工事や水道管更新工事と同じ仕様発注方式で実施されています。仕様発注方式とは、詳細仕様を確定させた工事仕様書を準備して積算で予定価格を策定した上で施工を発注する方式であり、自治体には多大な発注業務負担がかかっています。そこで、性能発注方式に切替えれば、自治体の発注業務負担を数分の1にできます。性能発注方式は、要求要件を示す要求水準書を準備して見積書の徴収査定で予定価格を策定した上で設計と施工を一括発注するからです。自治体の発注業務負担について、水道管更新工事の不適切発注事案を例として次に記載致します。

大阪市水道局では、仕様発注方式に起因する水道管更新工事の不適切発注事案が令和元年に発覚しました。平成24年から29年に大阪市水道局が発注した千件余りの水道管更新工事の9割強(五百社近い業者が関与)で、工事仕様書の指定と異なる安価な埋戻材料が使用されていました。仕様発注方式での工事完遂に欠かせない「発注者側による監督」が、殆ど行われていませんでした。業務多忙が原因です。大阪市水道局では、年間約70kmの水道管更新工事の発注業務に190人の専従職員がいますが、仕様発注方式では、工事場所ごとに詳細な施工図面を作成して緻密な積算で予定価格を策定するため、発注前の業務に多大な労力を要するからです。このような仕様発注方式を用いてきた結果、大阪市水道局では、道路の耐久性を今更調べることも困難な状況を招いてしまいました。

この問題の抜本的解決策は、性能発注方式への切替です。性能発注方式では、監督の徹底を含めて、従前の数分の1の職員で対応できます。なぜならば、性能発注方式では、場所を変えて同種工事を繰り返す場合には、要求水準書は、要求要件に係る文言の一部修正と現場の写真・見取図の差替で迅速的確に作成できるからです。予定価格も、複数の受注希望業者(設計と施工のいずれの業者でもOK)から徴収した見積書の査定により、迅速的確に策定できるからです。つまり、性能発注方式は、自治体の小規模工事(老朽インフラ補修工事、道路補修工事、水道管更新工事)に最適と言えます。

ところが、全国の殆どの自治体は、性能発注方式を忌避してしまっています。

自治体では、性能発注方式の活用に向けて、設計・施工一括発注方式(性能発注方式)実施要綱・要領の整備が20年以上前から全国的に進められています。しかし、どの実施要綱・要領でも、性能発注方式の対象工事を技術的に高難度な工事(これでは、自治体の小規模工事は全て性能発注方式の対象外となります)としているため、どの自治体でも性能発注方式の活用は不発のままです。加えて、どの自治体でも、地域内小規模業者の受注機会確保の観点から、地域のより多くの業者への発注を目的として、設計・施工分離の仕様発注方式を促進しているのです。

しかし、性能発注方式は、小規模工事を地域内業者に発注したい場合にこそ、大きな効果を発揮します。やり方が問題ですから、管区警察局県情報通信部への会計検査院会計検査(平成13年茨城、平成17年福岡、平成20年と23年神奈川)で「適正に経理されている。」旨の講評を頂いた性能発注方式のやり方を以下に記載致します。ちなみに、会計検査の対象は、土木・建築工事を含めた大中小規模の警察情報通信システム整備工事でした。

要求水準書は、設計・施工上必要十分となる要求要件の記載が肝要です。予定価格は、書面決裁で選定した複数業者(候補業者は、従前からの設計業者や施工業者のいずれでもOK)に、要求水準書付の文書で見積依頼して、徴収した見積書の査定で予定価格を策定します。この際、見積書の日付、有効期限、宛先、件名、見積者氏名・捺印の確認と、要求水準書の要求要件について計上漏れが無いかの確認が肝要です。

以上を、◯◯◯への提言として具申致します。

 

【 上記意見を首相官邸、総務省、国土交通省にも提出しました。

 

 ◯ 令和5年1月31日、首相官邸、総務省、国土交通省の各ホームページの「意見受付コーナー」を通じて、上記と同内容の意見を提出しました。

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令和5年1月、全国の全自治体に提言を提出しました。

【 タイトル 】

昭和30年代に適合した仕様発注方式では、◯◯◯の発注者責任が全うできません。◯◯◯には提言先の自治体名が入ります。)

 

 【 提言 】

◯◯◯が実施する工事は、他国に類を見ない我が国独自の仕様発注方式(詳細仕様を確定させた工事仕様書に基づいて、緻密な積算により予定価格を策定した上で、施工を発注する方式)で発注しています。「設計・施工の分離の原則」を絶対視しようとする勘違いが、◯◯◯にも浸透しているからです。その結果、グローバルスタンダードな性能発注方式(実現を求める要求要件を規定した要求水準書に基づいて、見積書の徴収・査定により予定価格を策定した上で、設計と施工を一括発注する方式)の活用が、全く忌避されています。

ところで、新国立競技場整備事業は、仕様発注方式で大失敗し破綻したのですが、性能発注方式(公共工事の品質確保の促進に関する法律第18条に規定された方式)で復活し成功しました。この事例から、性能発注方式には、仕様発注方式に起因する諸問題を解決するパワーがあることが明らかです。

そこで、性能発注方式の活用を忌避させている前記の勘違いが、「法令上の根拠規定を欠いた勘違い」であることを次に記載します。

「設計・施工の分離の原則」は、昭和34年発出の建設事務次官通達「土木事業に係わる設計業務等を委託する場合の契約方式等について」の中で打ち出されたものです。この通達を端緒として、「設計・施工の分離の原則」に基づく仕様発注方式が、法令上の根拠規定を欠いたまま、土木分野のみならず建築分野等も含めて全国に浸透し今日に至っているのです。

問題は、今日では官民の技術力が逆転していることです。戦前の土木・建築の公共工事は、全てが官庁直営方式でした。このため、昭和30年代は、民間に比べて官庁の技術力が圧倒的に上でした。仕様発注方式は、このような時代に適合して生まれたのです。しかし、昭和から平成に移り変わる頃に官民の技術力は逆転し始め、今日では、民間が最先端の技術力を有しています。

それゆえ、「この工事仕様書のとおりにやってくれ」といった仕様発注方式は、今日ではあたかも、技術力に劣る者が優る者に対して指図するような、おこがましい状況にあります。このことが、近年多発している「施工結果における責任問題」に直結しています。つまり、仕様発注方式では、発注者が示した工事仕様書に従った施工で生じた不具合の責任は、工事仕様書を示した発注者が負うことになるのです。これは、外部委託で作成した設計図書の誤りに起因する施工時の不具合についても同じであり、設計図書に基づく工事仕様書を示した発注者の責任は免れません。

このことを具体的にご理解頂くために、仕様発注方式に起因して大阪府が発注者責任を問われた事例を次に記載します。

2021年9月28日付の日経クロステック記事「調節池整備に伴う地盤沈下で大阪府に賠償命令、施工者は免責」によれば、大阪府が東大阪市に整備した宝町調節池の竣工から4年後に、調節池に隣接する民間工場の経営者から、整備工事で工場地盤が不同沈下して被害を受けたとして、損害賠償訴訟が提起されました。2021年9月、大阪地裁は判決で、設計段階での不同沈下対策の不備が原因として、大阪府の過失責任を認めて賠償を命じています。他方、施工業者の過失責任は否定しています。

宝町調整池整備事業は、仕様発注方式でした。大阪府が示した工事仕様書に従った施工が不具合を生じたのですから、大阪府が責任を負うことになったのです。

このような問題は、性能発注方式で解決できます。性能発注方式では、要求要件を示す要求水準書を用います。そこで、宝町調整池整備事業を例とすれば、実現を求める要求要件の一つとして「現場での工事は、第三者及び既存施設に害を及ぼさないように実施すること」を規定しておくことにより、受注業者の責任で設計と施工を通じた工場地盤の不同沈下対策ができるのです。

仕様発注方式を性能発注方式に切り替えていく上でのモデル事例は、前記の新国立競技場整備事業です。工事規模の大小に関わらず、性能発注方式の基本的な取組み方や考え方は同じですから、新国立競技場整備事業は、理想的な要求水準書を作成した貴重なモデル事例であり、要求水準書に基づく業者見積もりの査定により予定価格を策定する上でのモデル事例となります。

以上を、提言として具申致します。

 

【 上記意見を首相官邸、総務省、国土交通省にも提出しました。

 

 ◯ 令和4年12月30日、首相官邸、総務省、国土交通省の各ホームページの「意見受付コーナー」を通じて、上記と同内容の意見を提出しました。

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令和5年2月20日

デジタル庁HPの「ご意見・ご要望」に提出した意見

【 意見・要望 】

 我が国では、システムへのディープラーニング導入を検討する際,どのようにシステムの品質を保証するかが問題となり,導入を断念するケースが発生しています。欧米ではディープラーニングを搭載したシステムやサービスが広まっていますが、前記の問題は全く聞こえてきません。

 ディープラーニングを含めたソフトウェア全般について言えることですが、目に見えないソフトウェア部分だけを殊更に取り上げてその品質を証明して保証せよと言われても出来ない相談です。欧米では発注側からベンダーに対してこのように要求されることはまずあり得ません。発注の考え方が、グローバルスタンダードな性能発注方式だからです。我が国だけは、他国に類を見ないガラパゴスな仕様発注方式です。

 性能発注方式とは、「このような機能と性能を備えたものを作ってくれ。」といった発注方式です。この場合には、要求された機能と性能の実現方法について、ハードウェアに依るかソフトウェアに依るかは問いません。結果として「このような機能と性能をこのとおりに備えていることを証明できたもの」が、発注者への成果物になるからです。ソフトウェア部分だけの品質証明ができたとしても、それは部分最適化に過ぎません。大事なことは、ハードウェアとソフトウェアを全体最適化した結果として、発注側が求めた「このような機能と性能を備えたもの」を作り上げて、「このような機能と性能を備えていること」を、発注側が確認できるように示すことです。このような対応は、性能発注方式では当たり前の対応です。

 ところが、我が国では、このような「当たり前の対応」ができません。仕様発注方式だからです。仕様発注方式とは、「発注側が示した設計図書のとおりに作ってくれ。」といった発注方式です。このため、仕様発注方式では、ハードウェアについては詳細な設計図書を示すことができるのですが、ソフトウェアについては目に見えませんので設計図書を示すことができません。つまり、「このとおりにプログラミングしてくれ。」はあり得ませんので、仕様発注方式はソフトウェアの発注には不適と言えます。すなわち、仕様発注方式一辺倒であることが、我が国では「どのようにソフトウェアの品質を保証するかが問題」となることの根底にあります。ちなみに、「このようなものをプログラミングしてくれ」は自然ですから、性能発注方式はソフトウェアの発注に最適と言えます。

 このことから、我が国がAIやDXを活用していく分野で他国に後れをとらないために、システム開発における発注側の取組み姿勢を、仕様発注方式の考え方から性能発注方式の考え方に一刻も早く転換していく必要があります。

 以上を、デジタル庁への提言として具申致します。

 

【 上記意見を首相官邸等にも提出しました。

 ◯ 令和5年2月21日、首相官邸、文部科学省、総務省、国土交通省それぞれのホームページの「意見・提案受付コーナー」を通じて、上記と同じ内容の意見を提出しました。

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令和5年2月12日

首相官邸HPの「ご意見募集」に提出した意見

【 テーマ 】

性能発注方式の取組み方によるシステム開発委託が、我が国のDXを成功させる鍵です。しかし、我が国では仕様発注方式の取組み方しかできないことが問題です。

 

 【 意見 】

 DXに欠かせないシステム開発委託に向けて、グローバルスタンダードである性能発注方式の取組み方(つまり、このようなものを作ってくれといった、トップダウンによる全体最適化を求める取組み方であり、システム開発には最適です。)が、我が国では殆どできません。他国に類を見ない我が国独自のガラパゴスである仕様発注方式の取組み方(つまり、発注者が指示したとおりに作ってくれといった、ボトムアップによる部分最適化を求める取組み方であり、システム開発には全く適しません。)が、官民のあらゆる分野で我が国の無意識レベルの常識と化しているからです。

 このことが災いして、我が国では、大企業の基幹系システム開発委託の失敗・頓挫が頻発し、その責任を巡って裁判沙汰となった事例が続出しています。マスコミ報道された代表的な事例は、次のとおりです。

1 三菱食品は、基幹系システム開発失敗の責任はインテックにあるとして、約127億円の損害賠償を求める訴訟を提起(2018年11月)

2 古河電気工業は、基幹系システム開発失敗の責任はワークスアプリケーションズにあるとして、約50億円の損害賠償を求める訴訟を提起(2018年11月)

3 文化シヤッターは、基幹系システム開発失敗の責任は日本IBMにあるとして、約27億円の損害賠償を求める訴訟を提起(2017年11月)

4 野村ホールディングスと野村証券は、基幹系システム開発失敗の責任は日本IBMにあるとして、約36億円の損害賠償を求める訴訟を提起(2013年11月)

5 NTT東日本は、基幹系システム再構築の発注元であった旭川医科大学に対して、契約解除に伴う約23億円の損害賠償を求める訴訟を提起(2010年8月)

6 スルガ銀行は、基幹系システム開発失敗の責任は日本IBMにあるとして、約111億円の損害賠償を求める訴訟を提起(2008年3月)

 システム開発委託でこのようなトラブルを惹き起こしていたのでは、企業体質を変革・強化するDXの推進・実現など、叶うはずもありません。性能発注方式の取組み方でシステム開発委託してDXを推進する欧米諸国では、到底考えられない異常事態です。企業体質の優劣は、延いては国力の優劣に繋がります。それゆえ、一刻も早く、性能発注方式の取組み方を我が国の常識とする必要があります。しかし、戦後の我が国では、見習うべき性能発注方式の成功事例が殆ど見当たりません。土木・建築工事や各種製造請負などのあらゆる分野で、戦後の我が国は今日に至るまで仕様発注方式一辺倒だったからです。しかし、我が国でも戦前には、見習うべき理想的な性能発注方式による見事な成功事例があります。零戦です。そこで、性能発注方式で大成功を収めた零戦に学んで、理想的な性能発注方式の具体的かつ効果的な取組み方や考え方を理解し、システム開発委託に活かしていくことが肝要です。

以上を、首相官邸への意見として具申致します。 

 

【 上記意見をデジタル庁にも提出しました。

 ◯ 令和5年2月12日、デジタル庁ホームページの「ご意見・ご要望受付コーナー」を通じて、上記と同じ内容の意見を提出しました。

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令和4年12月23日、文部科学省HPの

「御意見・お問合せコーナー」に提出した意見

【 件名 】

X線天文衛星「ひとみ」の分解事故の教訓は、事前審査を仕様発注方式から性能発注方式に改めることです。

 

【 内容 】

米国航空宇宙局や欧州宇宙機関等との国際協力ミッションであったX線天文衛星「ひとみ」は、2016年2月の打上げ成功の約40日後に、ソフトウェアのバグとデータの誤入力が直接の原因となり、衛星軌道上で異常回転を生じてバラバラに分解してしまいました。その代替となるX線分光撮像衛星は、当初は2021年度に打上げ予定であったところ、衛星搭載機器に生じた原因不明事象により、未だに打上げられていません。

「ひとみ」の所管はJAXAの宇宙科学研究所ですが、その前身である東大宇宙航空研究所以来の伝統を引き継ぎ、衛星の製造は仕様発注方式(この設計どおりに作ってくれといった、我が国独自の発注方式)のままです。具体的には、発注に先立ち開催する設計審査会において、メカニカルな設計の細部にわたって事前審査を行い、設計審査会をパスした設計図面に基づき製造発注するものです。東大宇宙航空研究所の時代は、衛星の機能と性能がメカニカルな設計の良し悪しに大きく左右されていたため、設計審査会での設計細部にわたる審査は大きな意味を持っていました。しかし、今日では、ソフトウェアが衛星の安全性や信頼性などの機能と性能を大きく左右するようになっています。しかし、目には見えないソフトウェアについての事前審査を、従前どおりの設計審査会で行うことは極めて困難であり、ソフトウェアのバグを予見することも不可能です。このことが、「ひとみ」の分解事故に直結しています。つまり、「ひとみ」は、設計審査会の事前審査で衛星本体の安全性や信頼性が殆ど確認できないままに製造発注され、打ち上げられてしまったのです。

今日では、ソフトウェアが機能と性能を左右するようになっていますから、この設計どおりに作ってくれといった仕様発注方式では適する筈もなく、このような機能と性能を備えたものを作ってくれといった、グローバルスタンダードな性能発注方式でなければ対処できなくなっています。それゆえ、設計審査会を要求要件審査会に変更して、衛星の設計と製造を請負う企業に実現してもらいたい機能と性能についての要求要件(衛星の安全性や信頼性を確保すること、X線天体観測の精度と時間を確保すること、など)について、要求水準書に具体的かつ必要十分に規定されているか否かを事前審査する仕組みとすることが肝要です。

以上を、意見として具申致します。

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令和4年12月7日

首相官邸HPの「ご意見募集」に提出した意見

【 テーマ 】

公共工事の発注に先立ち策定する予定価格について、確定した詳細仕様に基づく緻密な積算に依るものでなければ法令上の規定に反する、といった国土交通省の勘違いが全国の自治体に浸透しており、老朽インフラ補修工事を的確に進めることが困難になっています。

 

【 意見 】

2022年12月7日のNHK「おはよう日本」での報道と同日付のNHK NEWS WEB記事「老朽インフラ増加 補修されていない橋やトンネル7000か所余」によれば、老朽インフラの安全点検で早急な補修が必要と判断された後、自治体の財政難や人材不足により、5年を超えても補修されていない橋やトンネルが7000箇所余りに上ることがNHKの分析で判明しています。また、建設後50年超の老朽橋の割合が現在の34%から10年後には59%まで急増することや、国土交通省道路局国道・技術課が「老朽インフラの安全対策は特に小規模の自治体で予算や人員が厳しく、十分に進んでいないと認識している。」ことも報道されています。

しかし、自治体の人材不足解消の見込みは無いため、自治体の補修工事発注業務を効率化しない限り、補修されない老朽インフラが増加の一途を辿ります。それゆえ、自治体の老朽インフラ対策で最も重要なことは、補修工事発注業務の効率化です。ところで、老朽インフラ補修工事は、全国の自治体で仕様発注方式により実施されています。事前に策定する予定価格について、確定した詳細仕様に基づく緻密な積算に依るものでなければ法令上の規定に反する、といった国土交通省の勘違いが全国の自治体に浸透していることが原因です。仕様発注方式とは、詳細仕様を確定させた工事仕様書を準備して積算で予定価格を策定した上で施工を発注する我が国独自の方式であり、自治体職員には多大な業務負担がかかっています。そこで、前記の勘違いを払拭してグローバルスタンダードな性能発注方式に切り替えれば、自治体職員の業務負担を数分の1に激減できます。性能発注方式は、発注要件のみを示す要求水準書を準備して見積書の徴収査定で予定価格を策定した上で設計と施工を一括発注する方式だからです。業務負担の激減効果について、地方公営企業が実施している水道管更新工事を例として以下に記載致します。

全国の地方公営企業の水道管更新工事は、全て仕様発注方式で実施しています。ここでも、前記の国土交通省の勘違い(国の契約に関する法令は、会計法と予算決算及び会計令(予決令)の2つです。予定価格について、会計法では「予定価格の制限の範囲内で」とする運用方法の規定のみであり、予決令では、第七十九条と第八十条で(予定価格の作成と決定方法)が規定されていますが、要するに「予定価格は、仕様書、設計書等によって、適正に定めなければならない。」ということです。また、会計法と予決令のどこにも積算という文言はありません。従って、「予定価格は、確定した詳細仕様に基づく緻密な積算に依るものでなければ法令上の規定に反する」といった認識は、勘違いも甚だしいと言えます。)が、地方公営企業にも浸透しているからです。しかし、地方自治法と地方自治法施行令では、予定価格は「その制限の範囲内で」とする運用方法の規定のみであり、積算はその言葉すら見出せません。また、地方公営企業法には予定価格の言葉すらありません。従って、地方公営企業は、自治体もそうですが、性能発注方式を用いても全く問題は無いのです。

大阪市水道局では、仕様発注方式に起因する水道管更新工事の不適切事案が2019年に発覚しています。2012年から2017年に大阪市水道局が発注した約1100件の水道管更新工事について、件数で9割強の工事(500社近い業者が関与)で、工事仕様書の指定とは異なる安価な埋戻材料が使用されていました。仕様発注方式での工事完遂に欠かせない「発注者側による監督」が、殆ど機能していませんでした。その結果、道路の耐久性を今更調べることも困難な状況を招いてしまいました。このような問題の抜本的な解決策は、水道管更新工事を性能発注方式に切り替えることです。性能発注方式では、工事仕様書指定材料を受注業者が勝手にオーバースペックと判断するような事態は考えられません。また、仕様発注方式では、工事場所ごとに詳細な施工図面を作成して緻密な積算で予定価格を策定するため、発注には多大な労力が必要(大阪市水道局では年間約70kmの水道管更新工事の発注業務に190人もの職員が専従)ですが、性能発注方式では、監督の徹底を含めて数分の1の職員で対応可能となります。なぜならば、性能発注方式では、同種工事を反復実施する場合には、発注要件を示す要求水準書について、文言の一部修正と現場見取図等の差替で迅速的確に作成できるからです。

以上のことから、自治体の老朽インフラ補修工事の的確な推進に向けて、国土交通省に起因する勘違いを是正した上で、仕様発注方式から性能発注方式に変更することの意義・効果・効能について、意見として提出する次第です。

 

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令和4年11月27日

首相官邸HPの「ご意見募集」に提出した意見

【 テーマ 】

我が国独自の仕様発注方式の考え方に立脚したプロジェクト運営には弊害が多く、先日発覚した五輪談合疑惑もその一端

 

【 意見 】

仕様発注方式とは、詳細仕様を確定させた仕様書に基づいて工事の施工や機器等の製造請負を発注するといった、つまり、「この設計のとおりに作ってくれ」といった我が国独自の発注方式です。ちなみに、機能・性能の要求要件を示す要求水準書に基づいて設計・製造・施工を一括して発注するといった、つまり、「このようなものを設計も含めて作ってくれ」といった性能発注方式がグローバルスタンダードです。仕様発注方式は、法令上の根拠規定が無いままに、昭和34年発出の建設事務次官通達「土木事業に係わる設計業務等を委託する場合の契約方式等について」を端緒として、土木分野のみならず建築分野や各種製造請負分野も含めて全国に浸透し今日に至っています。このため、日本人は、半世紀以上にわたって、性能発注方式の取組み方や考え方に触れないままに、仕様発注方式の取組み方や考え方のみが連綿と引き継がれる中で生きてきました。いわば、仕様発注方式は、日本人のDNAにしっかりと組み込まれているような存在です。それゆえ、我が国では、大規模なプロジェクトの運営面にも、仕様発注方式の取組み方や考え方のみが常識として色濃く反映されてしまっています。

我が国では、東京五輪などの巨大プロジェクトに要するトータルコストが、プロジェクトの進展につれて膨らむ一方となりがちです。これは、プロジェクト運営の中核を占める必要経費についての考え方が、仕様発注方式の考え方にどうしても立脚してしまうためです。一般的に、プロジェクトを立ち上げる時点では、プロジェクトで取組む内容と必要経費を大雑把に見積もりますが、プロジェクトの進展につれて、プロジェクトの内容を詳細に詰めて充実していくなどの内容変更が避けられません。しかし、仕様発注方式の考え方(仕様発注方式では、設計内容を変更する都度、それに応じて契約金額を変更するのが通例)に立脚してプロジェクトを運営する限り、プロジェクトの進展に伴う内容変更はトータルコストの膨張に繋がってしまうのです。このことは、仕様発注方式の考え方に立脚したプロジェクト運営の大きな弊害です。

そこで、欧米諸国のように性能発注方式の考え方に立脚してプロジェクトを運営すれば、このような弊害を払拭できます。我が国におけるモデル事例は、令和元年に完成した新国立競技場整備事業です。具体的には、最初にプロジェクトのコンセプトを明確にして、その大枠(実施内容・実施期間・実施に要する経費)を設定しています。次に、価格と技術の両面での競争原理を働かせるために、受注者に委ねるべき設計には立ち入らない要求水準書を作成して、複数候補の中から受注者を選定しています。その結果、受注者の創意工夫や最先端技術を存分に活かして、費用対効果に優れた結果を得ることができています。このことから、どのようなプロジェクトであっても、性能発注方式の考え方に脚して運営すれば、トータルコストが膨張し続ける事態を回避して、予算の範囲内で最善の結果を得ることができると言えます。

ところで、東京五輪では、競技場運営委託先選定に係る談合疑惑が先日発覚しています。マスコミの報道によれば、各競技場でのテスト大会の計画立案業務について、大会組織委員会が計26件の総合評価方式一般競争入札を実施したところ、大半の入札が一者応札で終わり、事前に予定されていた業者が受注したとの疑いです。ここで、総合評価方式についてですが、平成5年から6年にかけて開催された日米包括経済協議で、米国からその採用を強く求められた方式です。米国の官公庁発注では、プロポーザルとネゴシエーションによる性能発注方式が基本であるため、総合評価方式は受注者選定に不可欠です。ところが、我が国では仕様発注方式が基本であるため、総合評価方式との親和性に欠けており、総合評価のための詳細設計を応札者に求めて一者応札の事態を頻発させるなど、競争原理が逆に阻害されています。このことは、前記のテスト大会計画立案業務において、仕様発注方式(性能発注方式は理解されていません)による総合評価方式一般競争入札を実施したところ、大半の入札が一者応札に終わった結果と符合します。それゆえ、これから先、このような疑惑が生じる余地を払拭するには、前記の性能発注方式、つまり、最初に事業のコンセプトを明確にして実施内容等の大枠を設定し、次に、価格と技術の両面での競争原理を働かせるために受注者に委ねるべき設計には立ち入らない要求水準書を作成して、複数候補の中から受注者を選定するといった方式の採用が、何よりも望まれるところです。

以上を、意見として具申致します。

 

【 上記意見の関係先にも提出しました。

 

令和4年12月21日、東京都ホームページの「都民の声総合窓口」を通じて、上記意見をその関係先として提出しました。

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令和4年11月23日

首相官邸HPの「ご意見募集」に提出した意見

【 テーマ 】

公共建築物の木造化を促進するには、我が国独自の仕様発注方式に替えて、グローバルスタンダードである性能発注方式を上手に用いる必要

 

【 意見 】

脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律(令和3年の改正前は、公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律)に基づき、公共建築物の木造化を促進するには、施工業者が有する最先端技術や施工上の創意工夫を存分に活かしていくことが不可欠です。これには、公共建築物の発注時に、グローバルスタンダードである性能発注方式(要求要件を示す要求水準書に基づき、設計と施工を一括して発注する方式)を用いる必要があります。

しかし、我が国では、仕様発注方式(昭和34年1月に発出された建設事務次官通達を根拠とする、設計と施工を分離して発注する方式)が、公共建築物の発注時に専ら用いられています。仕様発注方式では、設計を別途実施して詳細仕様を確定させた工事仕様書に基づき施工を発注します。このため、設計段階で詳細仕様を確定できる「熟して枯れた技術」による施工しかできません。つまり、仕様発注方式では、施工業者が有する最先端技術や施工上の創意工夫を活かしていくことが難しいのです。

ところで、PFI法に基づき民営化を主眼とする公共事業(設計と施工と運営を一括して受託業者を選定)や、包括的民間委託による公共事業では、仕様発注方式を用いることができません。そこで、公共工事の品質確保の促進に関する法律が平成26年に改正され、その第18条に「技術提案の審査及び価格等の交渉による方式(性能発注方式の一類型)」が規定されました。この第18条の規定は、法改正の翌年に新国立競技場整備事業に活かされたのです。平成24年の国際デザインコンクールを基点とした当初の新国立競技場整備計画は、仕様発注方式による整備に向けて2年半もの設計委託期間と60億円余りの設計委託費を費やした挙句に、工事費試算額の高騰により平成27年7月に計画全体が白紙撤回されたのですが、その翌月には、前記第18条の規定に基づく手続きにより新国立競技場整備事業が蘇り、予定した工期と工事費の範囲内で、令和元年11月に木材を多用した新国立競技場は完成しました。性能発注方式を上手に用いて、相反関係にある「木材の活用を含めたスペック」と「工事費」と「工期」の全体最適化に成功した賜物と言えます。

ところが、昨今の公共建築物では、新国立競技場整備事業の他には、性能発注方式の上手な活用事例が殆ど見当たりません。原因は、公共事業の発注に先立ち策定する予定価格について、確定した詳細仕様に基づく緻密な積算に依るものでなければ法令上の規定に反するといった、仕様発注方式に由来する勘違いが国や全国の自治体に蔓延しているためです。国や自治体の契約に関する法令は、会計法、予算決算及び会計令(予決令)、地方自治法、地方自治法施行令の4つです。この中で、予定価格の策定方法の規定は予決令のみにあり、他の3つの法令では「予定価格の制限の範囲内で」とする運用方法の規定のみです。予決令では、第七十九条と第八十条で(予定価格の作成と決定方法)が規定されていますが、要するに「予定価格は、仕様書、設計書等によって、適正に定めなければならない。」ということです。また、4つの法令のどこにも「積算」という文言はありません。従って、「予定価格は、確定した詳細仕様に基づく緻密な積算に依るものでなければ法令上の規定に反する」といった認識は、勘違いも甚だしいと言えます。

自治体では、「設計・施工一括発注方式実施要綱・要領」の制定・告示などにより、公共事業で性能発注方式を用いていく制度整備が進められています。しかし、「要求要件を示す要求水準書」では、確定した詳細仕様に基づく緻密な積算による予定価格の策定ができないため、殆どの自治体で、予定価格策定の困難さを理由として性能発注方式を忌避してしまっています。つまり、「予定価格は、確定した詳細仕様に基づく緻密な積算に依るものでなければ法令上の規定に反する」といった勘違いが、新国立競技場整備事業を成功に導いた性能発注方式の活用を阻害してしまっているのです。

この問題の解決策は明白です。つまり、新国立競技場整備事業をモデルとして、価格と技術の両面での競争原理が働く要求水準書(受注者に実現を求める要求要件について、受注者に委ねるべき設計には決して立ち入らず、受注者が設計・施工する上で必要十分に記載した要求水準書)を作成して、選定理由明記の書面決裁で選定した複数の業者に、制定済みの要求水準書に基づく見積もりを文書で依頼して、徴収した見積書の査定により予定価格を策定するのです。このような策定方法であれば、「予定価格は、仕様書、設計書等によって、適正に定めなければならない。」ことと完全に合致します。

以上を、意見として具申致します。

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令和4年11月26日、デジタル庁HPの

「ご意見・ご要望」に提出した意見

【 意見・要望 】

我が国の官公庁では、ソフトウェア開発を委託する場合に、詳細仕様を確定させた仕様書に基づいて発注するといった仕様発注方式(このとおりに作ってくれといった発注方式)の取組み方が主流ですが、欧米諸国では到底考えられない取組み方です。欧米諸国では、実現を求める「機能と性能の要求要件」を示した要求水準書に基づいて発注する性能発注方式(このような機能と性能を備えたものを作ってくれといった発注方式)の取組み方が一般的です。仕様発注方式は、昭和34年の建設事務次官通達を根拠とする我が国独自の発注方式ですが、性能発注方式は、グローバルスタンダードな発注方式だからです。

我が国だけが仕様発注方式の取組み方でソフトウェア開発を行う理由ですが、一つは、昭和34年以来の仕様発注方式が、あたかも日本人のDNAに組み込まれているかのごとくに、日本人の無意識レベルの常識と化してしまっていることの反映と言えます。もう一つは、予定価格の策定方法についての勘違いがあります。

国や自治体では、ソフトウェア開発の発注に先立ち、予定価格を策定しなければなりません。しかし、この場合の策定方法について、国や自治体では、公共工事の仕様発注時における予定価格の策定方法の他には思い至らないため、「予定価格は、確定した詳細仕様に基づく緻密な積算に依るものでなければ、法令の規定に反する」といった、公共工事の仕様発注時における勘違いが、ソフトウェア開発の発注時にも見受けられます。その証左は、少し古い話になりますが、2011年5月19日に開催された第9回政府情報システム改革検討会に提出された「調達に関する課題〜『IT 発注力』の向上について -見積力を中心として-(総務省行政管理局)」の資料です。この中で、性能発注方式については、その概念や効果的な実践方法を含めて全く記載されていません。それどころか、業者積算による見積もりを詳細にチェックできる発注者側の積算能力の向上が欠かせない、といったロジックがメインです。これでは、発注者側の積算能力が専ら問われる仕様発注方式に完全に回帰してしまいます。

そこで、前記の勘違いの話に戻りますが、国や自治体の契約に関する法令は、会計法、予算決算及び会計令(予決令)、地方自治法、地方自治法施行令の4つです。この中で、予定価格の策定方法の規定は予決令のみにあり、他の3つの法令では「予定価格の制限の範囲内で」とする運用方法の規定のみです。予決令では、第七十九条と第八十条で(予定価格の作成と決定方法)が規定されていますが、要するに「予定価格は、仕様書、設計書等によって、適正に定めなければならない。」ということです。また、4つの法令のどこにも「積算」という文言はありません。それゆえ、「予定価格は、確定した詳細仕様に基づく緻密な積算に依るものでなければ、法令の規定に反する」といった認識は、勘違いも甚だしいと言えます。

ところで、デジタル庁は、自治体システムの「標準仕様書」を示すことにより、2025年を目処としたシステムの標準化を各自治体に促しています。しかし、この施策は、我が国で多くの民間企業の基幹系システム更新プロジェクトの失敗・頓挫を招き、その責任を巡って裁判沙汰を頻発させてきた元凶であるところの、仕様発注方式に近似した取組み方に他なりません。つまり、①三菱食品は、基幹系システム開発失敗の責任はインテックにあるとして約127億円の損害賠償を求める訴訟を提起(2018年11月)、②古河電気工業は、基幹系システム開発失敗の責任はワークスアプリケーションズにあるとして約50億円の損害賠償を求める訴訟を提起(2018年11月)、③文化シヤッターは、基幹系システム開発失敗の責任は日本IBMにあるとして約27億円の損害賠償を求める訴訟を提起(2017年11月)、④野村ホールディングスと野村証券は、基幹系システム開発失敗の責任は日本IBMにあるとして約36億円の損害賠償を求める訴訟を提起(2013年11月)などの事案では、いずれも「汎用的なパッケージソフトウェア」の利用を基本として、発注者側の要望を踏まえて新たな機能を追加していくとしていたことや、これを受けて、発注者側の業務部門からの新システムへの機能追加要望・機能改善要望(これまでのやり方をできる限り踏襲したいといった業務部門の思惑からの要望が大半です。)が五月雨式にとめどもなく出されたことにより、受注者は長期にわたって新システムの詳細仕様を固めることができなかったことなどが共通しています。これでは、仕様発注方式に近似した取組み(つまり、「発注者が示す設計図書のとおりに作ってくれ」に考え方が近似した「発注者側が要望として言ったとおりに作ってくれ」といった取組み)であるため、大規模なソフトウェア開発を伴うシステム開発に失敗した場合の責任の所在が全く不明確になってしまいます。だから、裁判沙汰となってしまったのです。

それゆえ、自治体システム標準化を促進するには、性能発注方式の取組み方が肝要です。そして、性能発注方式を効果的に実践していくには、次の三つのステップが重要となります。

1 現状の課題・課題解決方策の概要・課題解決により期待される効果を記した開発計画書を作成して、組織トップまでの意志統一を図ること。

2 受注者に実現を求める「機能と性能の要求要件」について、必要十分に記した要求水準書を作成すること。

3 予定価格は、選定理由明記の書面決裁で選定した複数の業者に、制定済みの要求水準書に基づく見積もりを文書で依頼して、徴収した見積書の査定により予定価格を策定すること。ちなみに、このような策定方法であれば、前記の「予定価格は、仕様書、設計書等によって、適正に定めなければならない。」ことと完全に合致します。

以上を、意見・要望として具申致します。

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令和4年11月12日、会計検査院HPの

「情報提供のメールホーム」に提供した情報

【 不適切等と思われる事態 】

「確定した詳細仕様に基づく積算に依る予定価格の策定」は法令上の根拠が無く、性能発注方式の適切な活用を阻害しており、全国のごみ処理施設(清掃工場)整備運営事業において1者応札が頻発する元凶となっている。

  

【 不適切等と思われる事態の内容 】

公共事業の発注に先立ち策定する予定価格について、確定した詳細仕様に基づく緻密な積算に依るものでなければ法令上の規定に反する、といった勘違いが全国に蔓延しています。このような勘違いは、性能発注方式の適切な活用を阻害し大きな弊害を生じています。その具体的な一例として、ごみ処理施設(清掃工場)整備運営事業(設計・施工・運営を一括して業者選定するため性能発注方式が必須)において、積算による予定価格の策定ができるように詳細仕様を規定した「とんでもない要求水準書」を作成するゆえに、あるいは、技術提案書として、確定した詳細仕様に基づく設計図書の提出を求めるゆえに、1者応札の事態を招く大きな弊害が全国的に生じているのです。

全国のごみ処理施設(清掃工場)整備運営事業について、平成26年から今年までに入札等の結果がネット検索により判明した30件について調べたところ、全体の4割に当たる12件が1者応札でした。いずれも、積算による予定価格の策定ができるように詳細仕様を規定した「とんでもない要求水準書」を用いています。また、このような「とんでもない要求水準書」の記載方法は極めて類似しているため、「とんでもない要求水準書」であることが各自治体では分からないままに、「モデルとなる要求水準書」として全国的に流布していると言えます。

ところで、国や自治体の契約に関する法令は、会計法、予算決算及び会計令、地方自治法、地方自治法施行令の4つです。この中で、予定価格の策定方法の規定は予算決算及び会計令のみにあり、他の3つの法令では「予定価格の制限の範囲内で」とする運用方法の規定のみです。予算決算及び会計令では、第七十九条で(予定価格の作成)について、第八十条で(予定価格の決定方法)について規定されていますが、要するに「予定価格は、仕様書、設計書等によって、適正に定めなければならない。」ということです。また、4つの法令のどこにも「積算」という文言を見出すことはできません。このことから、全国に蔓延している「予定価格は、確定した詳細仕様に基づく緻密な積算に依るものでなければ法令上の規定に反する」といった認識は、勘違いも甚だしいと言えます。それゆえ、上記の問題、つまり、全国のごみ処理施設(清掃工場)整備運営事業において、積算による予定価格の策定ができるように詳細仕様を規定した「とんでもない要求水準書」を用いていることが原因となり、1者応札の事態を招く大きな弊害が生じている問題を解決するには、価格と技術の両面での競争原理が働く「理想的な要求水準書」を作成して、このような要求水準書に基づく見積書の徴収と査定を適切に行って予定価格を策定することが必要不可欠です。

具体的には、「理想的な要求水準書」として、受注者に実現を求める「機能と性能の要求要件」について、受注者に委ねるべき設計には決して立ち入らず、受注者が設計・製造・施工する上で必要十分に記載することが肝要です。そして、選定理由明記の書面決裁で選定した複数の業者に、制定済みの要求水準書に基づく見積もりを文書で依頼して、徴収した見積書を査定することにより予定価格を策定するのです。この際、金額の査定に先立ち、見積書の見積日付、有効期限、宛先、件名、見積責任者の住所・氏名・捺印を確認した上で、要求水準書に記載した「機能と性能の要求要件」について、見積書に計上漏れが無いかを確認することが肝要です。このような策定方法であれば、「予定価格は、仕様書、設計書等によって、適正に定めなければならない。」ことと合致します。

最後になりますが、国や自治体の公共事業の基本原則とされている「設計・施工の分離の原則」は、昭和34年1月に発出された建設事務次官通達「土木事業に係わる設計業務等を委託する場合の契約方式等について」 の中で打ち出されたものです。以来、設計と施工の分離発注方式、つまり、仕様発注方式が全国津々浦々に波及し今日に至っています。このため、仕様発注方式は、他国に類を見ない我が国独自のガラパゴス的な発注方式ですが、日本人には、半世紀以上にわたって、グローバルスタンダードな性能発注方式の取り組み方に触れる機会も無いままに、仕様発注方式の取り組み方のみが連綿と引き継がれてきたと言えます。いわば、仕様発注方式は、日本人のDNAにしっかりと組み込まれているような存在です。このことが、全国のごみ処理施設(清掃工場)整備運営事業において、詳細仕様を規定した「とんでもない要求水準書」を殊更に用いようとする根源にあります。それゆえ、会計検査院には、全国に蔓延している「予定価格は、確定した詳細仕様に基づく緻密な積算に依るものでなければ法令上の規定に反する」といった認識を払拭して頂きたく、情報提供方々、お願い申し上げます。 

 

【 以下は参考添付 】

全国のごみ処理施設(清掃工場)整備運営事業について、平成26年から令和4年までに入札等の結果がネット検索により判明した30件

【吉野川市】新ごみ処理施設整備・運営事業 入札結果情報(令和4年7月27日)

DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、1者応札

 

【長崎市】新東工場整備運営事業 審査講評(令和4年7月1日)

DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、1者応札

 

【敦賀市】新清掃センター整備・運営事業 審査講評(令和4年6月)

DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、2つの企業グループから選定

 

【豊橋市及び田原市】ごみ処理施設整備・運営事業 審査講評(令和4年6月)

DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、2つの企業グループから選定

 

【宝塚市】新ごみ処理施設等整備・運営事業 審査講評(令和4年6月)

DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、2つの企業グループから選定

 

【県央県南広域環境組合】第2期ごみ処理施設整備・運営事業 審査講評(令和4年3月25日)

DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、1者応札

 

【福井市】(仮称)新ごみ処理施設整備・運営事業 審査講評(令和4年1月)

DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、3つの企業グループから選定

 

【志太広域事務組合】(仮称)クリーンセンター整備・運営事業 審査講評(令和3年12月24日)

DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、1者応札

 

【枚方京田辺環境施設組合】可燃ごみ広域処理施設整備・運営事業 審査講評(令和3年12月)

DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、3つの企業グループから選定

 

【山辺・県北西部広域環境衛生組合】(仮称)新ごみ処理施設整備・運営事業 民間事業者の選定客観的な評価結果(令和3年10月)

DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、1者応札

 

【霧島市】(仮称)クリーンセンター整備・運営事業 審査講評(令和3年8月)

DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、2つの企業グループから選定

 

【北九州市】新日明工場整備運営事業 客観的評価結果の公表(令和2年10月8日)

BTO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、1者応札

 

【福山市】次期ごみ処理施設整備・運営事業 審査講評(令和2年6月)

DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、1者応札

 

【佐賀県東部環境施設組合】次期ごみ処理施設整備・運営事業 審査講評(令和2年5月15日)

DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、2つの企業グループから選定

 

【西知多医療厚生組合】ごみ処理施設整備・運営事業 審査講評(令和2年3月)

DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、2つの企業グループから選定

 

【我孫子市】新廃棄物処理施設整備運営事業 審査講評(令和2年1月14日)

DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、2つの企業グループから選定

 

【立川市】新清掃工場整備運営事業 審査講評(平成31年4月)

DBO方式に基づく「条件付き一般競争入札」で、3つの企業から選定

 

【千葉市】新清掃工場建設及び運営事業に係る落札者決定について(平成30年11月27日)

DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、3つの企業グループから選定

 

【八王子市】(仮称)新館清掃施設整備及び運営事業 審査講評(平成30年10月)

DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、1者応札

 

【守山市】環境施設整備・運営事業 審査講評(平成30年7月)

DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、4つの企業グループから選定

 

【出雲市】次期可燃ごみ処理施設建設運営事業 審査講評(平成30年6月)

DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、3つの企業グループから選定

 

【浜松市】新清掃工場及び新破砕処理センター施設整備運営事業 審査講評(平成30年1月)

BTO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、2つの企業グループから選定

 

【宇佐・高田・国東広域事務組合】ごみ処理施設整備・運営事業 審査講評(平成29年11月)

DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、2つの企業グループから選定

 

【糸魚川市】ごみ処理施設整備運営事業 審査講評(平成29年7月)

DBO方式に基づく「総合評価方式制限付き一般競争入札」で、1者応札

 

【見附市】新ごみ処理施設整備運営事業 事業者選定審査結果報告書(平成29年2月6日)

DBO方式に基づく「公募型プロポーザル方式」で、2つの企業グループから選定

 

【町田市】熱回収施設等(仮称)整備運営事業 審査講評(2016年10月)

DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、1者応札

 

【大磯町】(仮称)リサイクルセンター整備及び運営事業 審査講評(平成28年1月8日)

DBO方式に基づく「公募型プロポーザル方式」で、2つの企業グループから選定

 

【船橋市】南部清掃工場整備・運営事業に係る落札者の決定について(平成27年12月3日)

DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、1者応札

 

【城南衛生管理組合】折居清掃工場更新施設整備運営事業 審査講評(平成27年1月)

DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、1者応札

 

【上越市】廃棄物処理施設整備及び運営事業の事業者の選定に関する客観的な評価の結果について(平成26年3月31日)

DBO方式に基づく「総合評価一般競争入札」で、3つの企業グループから選定

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