【 インフラメンテナンス国民会議とは? 】

 

 インフラメンテナンス国民会議(国土交通省が事務局)は、「社会全体でインフラメンテナンスに取り組む機運を高め、未来世代によりよいインフラを引き継ぐべく、産学官民が有する技術や知恵を総動員するためのプラットフォーム」です。

 行政会員(大半の自治体)、企業会員(数千社の企業)、団体会員(数百の団体)、個人会員(数百人の個人)が参画するこの巨大なプラットフォーム(https://jcim.jp/member/list)は、2022年以降のインフラメンテナンス第2フェーズの中核を成す「地域インフラ群再生戦略マネジメント」の策定プロセスに、インフラに関心のあるNPO法人を含む国民が参加していく上で、かけがえの無い場となるものです。

 私は、個人会員として令和6年1月22日に入会しました。そこで早速(1月22日〜1月24日)、会員であれば誰でも参加できる「交流広場」に、以下の提言を掲示致しました。 

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インフラメンテナンス工事において、設計・施工分離発注方式は総合評価落札方式一般競争入札に適さず談合の温床になります。

 【 提言 】

 令和6年2月13日付の日経クロステック記事「三重県でまた談合疑惑の入札取りやめ、3カ月前には職員逮捕も」、令和5年12月25日付の日経クロステック記事「三重県職員を収賄罪で起訴、入札参加者への技術指導の見返りに200万円」、令和5年12月19日付の日経クロステック記事「治山ダム修繕工事で談合の疑い、2社の技術提案が酷似」によれば、いずれも三重県の発注に係る道路法面復旧工事、水道管補修工事、治山ダム修繕工事において、短期間の内に3件もの談合疑惑が報道されています。

 

 いずれの工事も、設計・施工分離発注方式で施工を発注するものであり、受注者の選定方法は、総合評価落札方式一般競争入札です。このような工事発注方法は、我が国の自治体で普遍的に用いられていますが、上記のような談合事案、談合疑い事案の発生を抑止することが困難です。その理由ですが、設計・施工分離発注方式は総合評価落札方式一般競争入札に適さないため、そのような不適合が談合の温床になるからです。つまり、発注者である自治体では、価格と技術の両面での競争原理を働かせることに傾注するのが難しいため、発注関係書類上の辻褄合わせに傾注しがちとなるからです。

 

 ここで、総合評価方式が我が国に導入された経緯についてですが、平成5年から6年にかけて開催された日米包括経済協議で、米国からその採用を強く求められたことが発端です。米国の公共工事の発注では、プロポーザルとネゴシエーションに基づく設計・施工一括発注方式が普遍的に用いられているため、価格と技術の両面を総合評価する方式は受注者選定に不可欠です。ところが、我が国の公共工事の発注では、設計・施工分離発注方式が普遍的に用いられているため、プロポーザルとネゴシエーションを前提とする総合評価方式との親和性に欠けており、書類上の総合評価のための詳細設計を応札者に求めて一者応札の事態を頻発させるなど、競争原理が逆に阻害されています。このように、設計・施工分離発注方式と総合評価落札方式一般競争入札との不適合が、談合の温床を形成してしまうのです。

 

 ところで、我が国で普遍的な設計・施工分離発注方式は、実は、他国に類を見ない我が国独自の発注方式です。我が国だけが拘り続けている設計・施工分離発注方式ですが、実際には我が国に何もメリットが無く弊害ばかりであることが、次のとおり、大阪・関西万博の海外パビリオン建設契約締結が進まないことで初めて顕在化しました。

 

 大阪・関西万博の来春の開幕に向けて、現時点で最も懸念されることは、海外各国が独自に建設する51館のパビリオン建設工事が大幅に遅れており、その多くが開幕までに出来上がらない恐れがあることです。51館の内、現時点で着工したのは2館のみであり、20館では建設業者が未定(建設工事契約が未締結)のままです。建設工事契約が締結できた31館では、国内の大手ゼネコンが直接請け負ったケースはありません。これでは、来春の開幕時に、万博の「華」である海外パビリオンの多くが出来上がっていないという悪夢が現実となりかねません。

 

 他方、国内パビリオンでは、昨年の8月頃までに全ての建設工事契約がゼネコン等の国内大手建設業者と締結済みです。海外と国内のパビリオンでは、建設工事契約締結の進捗状況に雲泥の差があります。その原因ですが、外国政府のパビリオン関係者とゼネコン等国内建設業者との間で、建設工事契約についての認識が大きく隔たっているのです。我が国では、設計・施工分離発注方式(このとおりに造ってくれといった、我が国独自の発注方式)が常識であり、工事請負契約書の雛型である「公共工事標準請負契約約款」と「民間建設工事標準請負契約約款」のいずれも、設計・施工分離発注方式を前提としています。ところが、海外ではデザインビルド方式(別途選定した建築デザインに基づく設計・施工一括発注方式であり、このようなものを造ってくれといった、グローバルスタンダードな発注方式)が常識です。このため、外国政府のパビリオン関係者には、設計・施工分離発注方式の概念を理解することは難しく、ましてや、我が国の標準的な工事請負契約書を理解して用いることは不可能です。

 

 このことから、我が国の自治体がこの先、冒頭記載の談合事案や談合疑い事案の発生を抜本的に抑止していくためには、我が国独自で弊害ばかりの設計・施工分離発注方式への拘りを捨てて、グローバルスタンダードな設計・施工一括発注方式を取り入れて、総合評価落札方式一般競争入札で価格と技術の両面の競争原理を確実に働かせていくことが肝要です。 

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これからのインフラメンテナンスには、費用対効果が期待できるインフラはどれかの見極めが欠かせず、また、予算を投入できないインフラへの対処をどうしていくべきかの検討も欠かせません。

 提言 】

 2012年の中央自動車道笹子トンネル天井板落下事故を端緒として2013年を社会資本メンテナンス元年とする「インフラメンテナンス第1フェーズ」では、2014年の関係省庁連絡会議決定による「インフラ長寿命化基本計画」や、2016年の「インフラメンテナンス国民会議」の設立などにより、令和2年度末までに各インフラ管理者において個別施設ごとの長寿命化計画(個別施設計画)を策定するなどの結果を出しています。そして、2022年からの「インフラメンテナンス第2フェーズ」では、前記の個別施設計画を踏まえて、事後保全から予防保全への移行を主眼とし、「地域インフラ群再生戦略マネジメント」などの推進が図られているところです。

 

 ここで問題となるのは、昨今の「資材価格の高騰や、働き方改革関連法に基づく労働時間の制約」といった、受注建設業者の死活問題に繋がりかねないリスク要因が主因となり、自治体の公共事業などでは予算額を大幅増額しなければ受注業者を選定できない事態が全国で相次いでいることです。この煽りを受けて2022年以降のインフラメンテナンスでは、全国的に数割ものコスト増となっています。つまり、インフラメンテナンス第1フェーズと同規模の予算を確保したとしても、インフラメンテナンス第2フェーズでは数割減のメンテナンスしかできないということです。このことは、新技術の導入などの発注上の施策により対処し切れるものではありません。

 

 それゆえ、これからは限られた予算を費用対効果が期待できるインフラから重点的に投入していくことが肝要となります。これには、費用対効果が期待できるインフラはどれかの見極めが欠かせず、また、予算を投入できないインフラへの対処をどうしていくべきかの検討も欠かせません。このような見極めや検討こそ、地域インフラ群再生戦略マネジメントのキーポイントと言えるのではないでしょうか。

 

 ところが、このようなキーポイントについて、国土交通省の『総力戦で取り組むべき次世代の「地域インフラ群再生戦略マネジメント」、インフラメンテナンス第2フェーズへ』提言書について、では全く触れられておらず、インフラメンテナンス国民会議の地域フォーラムを含めたどのフォーラムにおいても、全く触れられていません。このままでは、費用対効果が期待できるインフラはどれかの見極め方について、どこの自治体も判然としないままに、また、予算を投入できないインフラへの対処をどうしていくべきかについて、どこの自治体も全く検討しないままに、全国の自治体はインフラメンテナンス第2フェーズを漫然と推進していかざるを得なくなります。

 

 このことについての問題意識は、村役場でも持っています。今年の1月25日に関西圏の某村役場の秘書企画課から頂いたメールには、「本村では、少子高齢化や人口減少が進む中、今後さらに財政運営は厳しくなることが予測されます。その中で公共施設の老朽化対策も大きな課題の一つであり、施設そのもののあり方についても検討する必要があります。」と記載されていました。

 

 それゆえ、これからは限られた予算を費用対効果が期待できるインフラから重点的に投入していくことが肝要となりますので、費用対効果が期待できるインフラはどれかの見極め方について、また、予算を投入できないインフラへの対処をどうしていくべきかの検討の仕方について、自治体任せにするのではなく、国を挙げて考えていかなければならないところです。具体的には、インフラメンテナンス国民会議の自治体支援フォーラムあるいは市民参画フォーラムにおいて、費用対効果が期待できるインフラはどれかの見極め方について、また、予算を投入できないインフラへの対処をどうしていくべきかの検討の仕方について、広くディスカッションなどを行う場を設けることから始めてみる価値は大いにあるように思います。

 

 

【 補足    

 これからのインフラメンテナンスには、費用対効果が期待できるインフラはどれかの見極めが欠かせず、また、予算を投入できないインフラへの対処をどうしていくべきかの検討も欠かせません。

 ところが我が国では、国も自治体も、このような視点が欠落しているように感じます。このままでは、大規模な災害によりインフラが広範にダメージを受けた場合に、復興策としてインフラを元通りにしようとする他には成す術が無くなってしまいます。しかし、多くの費用と時間をかけてインフラを元通りにできたとしても、人口減少や高齢化が進んでいる今日では、かつてのインフラ整備時に期待されたような便益は望み得ないところです。

 このことから、これからのインフラメンテナンスに向けて、費用対効果が期待できるインフラはどれかを見極め、また、予算を投入できないインフラへの対処はどうしたらよいのかについて検討を積み重ねておけば、大規模な災害が発生してインフラが広範にダメージを受けた際に、限りある復興予算を最大限に有効活用できるようになります。

 南海トラフ巨大地震の発生が懸念されていますので、巨大地震発生後のダメージコントロールの視点からも、費用対効果が期待できるインフラはどれかを見極め、また、予算を投入できないインフラへの対処はどうしたらよいのかについて検討を積み重ねておくことが望まれます。 

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インフラメンテナンスを包括的民間委託で行う場合の予定価格の策定について 

【 提言 】 

 昨今、「資材価格の高騰や、働き方改革関連法に基づく労働時間の制約」が主因となり、自治体の公共事業では受注業者が選定できない事態、つまり、発注に失敗した事例が相次いでいます。直接的な原因は、これまでどおりの取り組み方や考え方で策定した予定価格(公募型プロポーザルの場合には提案上限価格)では、契約締結後の「資材価格の高騰や、働き方改革関連法に基づく労働時間の制約」といった建設業者には極めて重大なリスク要因が、全くと言ってよいほど予定価格(提案上限価格)に反映されていないためです。このような予定価格(提案上限価格)を事前公開した場合には応札(応募)が無く、再入札(再公募)時に予定価格(提案上限価格)を大幅に引き上げた挙句に、一者応札(一者応募)に終わってしまった事例が全国の自治体で頻発しているのです。一般競争入札や公募型プロポーザルの本来の意義・目的は、複数業者の参加により競争原理を働かせて費用対効果に優れた発注を実現するところにあるのですが、一者応札(一者応募)に終わったのでは時間と手間暇をかけた甲斐も無かったことになってしまいます。

 

 それゆえ、包括的民間委託によるインフラメンテナンスを成功させる上での最大の要諦は、複数業者の参加により競争原理を働かせて費用対効果に優れた発注を実現するところにあると言えます。

 

 自治体が包括的民間委託で用いる公募型プロポーザルは、「公共工事の品質確保の促進に関する法律」の第18条に規定された「技術提案の審査及び価格等の交渉による方式」に準じています。具体的には、受注業者がインフラメンテナンスを実施する上で必要十分となる要求要件をまとめた要求水準書を作成して、要求水準書に基づく技術提案と価格提案を公募します。次に、外部の有識者等で構成した選定委員会で技術提案と価格提案を審査して、優先交渉権者を選定します。そして、発注者である自治体は、優先交渉権者との交渉がまとまれば、その時点での提案価格を予定価格として優先交渉権者と随意契約を締結します。

 

 このような公募型プロポーザルでは、要求水準書に示された要求要件を満たす限り、受注業者が資材や工法について創意工夫を存分に凝らすことができますし、最先端技術の導入も容易です。

 

 また、上記の公募型プロポーザルでは、随意契約締結に先立つ予定価格は優先交渉権者からの提案価格に基づきますので、「資材価格の高騰や、働き方改革関連法に基づく労働時間の制約」といったリスク要因を予定価格に反映させることができます。

 

 しかし、最大の問題は、公募時の募集要項に示す提案上限価格です。提案上限価格を上回った価格提案は失格とされてしまいますが、このような提案上限価格はこれまでの類似実績等に基づいて設定されるため、昨今の「資材価格の高騰や、働き方改革関連法に基づく労働時間の制約」といったリスク要因がほとんど反映されていません。その結果、公募型プロポーザルへの応募者が皆無となる事態が多発しています。そこで、公募型プロポーザルへの複数の業者の参加を促すため、公募時の募集要項に提案上限価格を示さないことをお薦めします。提案上限価格を示さなければ、複数の業者からの価格提案と技術提案が大いに期待できるようになりますので、競争原理が働きやすくなるとともに、発注者である自治体側からすれば「市場の実勢価格」を具体的に掴めるようになるからです。

 

 なお、複数の業者の参加により競争原理を働かせて費用対効果に優れた発注を実現する上で、募集要項、要求水準書、審査選定基準、工事等請負契約書の全般にわたって細部までチェックして、競争を阻害する記述を除去または改訂することが肝要です。

 

 

【 補足   

 競争入札に先立ち策定しなければならない予定価格は、これまでは確定した詳細仕様(つまり、工事仕様書です。)に基づく緻密な積算により策定してきました。ところが、このようにして策定した予定価格は、昨今の「資材価格の高騰や働き方改革関連法に基づく労働時間の制約」といった、建設業者の死活問題に繋がりかねないリスク要因への対処が難しく、入札不落や入札不成立が全国の自治体で多発している元凶となっています。なぜならば、予定価格策定時の資材価格は、一般財団法人建設物価調査会が毎月刊行する「建設物価」に基づくため、予定価格策定後に資材価格の上昇が見込まれたとしても、その上昇リスク分を予定価格に反映させることができないからです。また、労働時間の制約を、作業員等の労働単価に置き換えて反映させることもできないからです。

 ところで、国や自治体の契約に関する法令は、会計法、予算決算及び会計令、地方自治法、地方自治法施行令の4つです。この中で、予定価格の策定方法の規定は予算決算及び会計令のみにあり、他の3つの法令では「予定価格の制限の範囲内で」とする運用方法の規定のみです。予算決算及び会計令では、第七十九条で(予定価格の作成)について、第八十条で(予定価格の決定方法)について規定されていますが、要するに「予定価格は、仕様書、設計書等によって、適正に定めなければならない。」ということです。また、4つの法令のどこにも「積算」という文言を見出すことはできません。このことから、全国に蔓延している「予定価格は、確定した詳細仕様に基づく緻密な積算に依るものでなければ法令上の規定に反する」といった認識は、勘違いも甚だしいと言えます。

 そこで、昨今の「資材価格の高騰や働き方改革関連法に基づく労働時間の制約」といったリスク要因を予定価格に的確に反映できるようにするため、下記の3段階の予定価格策定手順をお薦めします。ちなみに、この手順は、私が警察での現役時代に、土木・建築工事を含む数百件の警察情報通信施設整備事業を性能発注方式(設計・施工一括発注方式)で実施した際に、実際に用いた予定価格策定手順であり、会計検査院による4回の会計実地検査において「適正に経理されている」旨の講評を受けることができた予定価格策定手順です。

1 見積もり依頼先としての選定理由を明記した書面決裁(工事請負契約書上の「甲」となる自治体首長までの決裁)により、複数の業者を選定します。ここで、談合等を防ぐため、選定した業者名は最後まで外部には伏せておくことが肝要です。

2 1で選定した複数の業者に、制定済みの工事仕様書を添付した見積もり依頼文書を送付して、指定した期日(設計・施工分離発注方式の場合には数ヶ月先とすることが必要)までの見積書の作成と送付を依頼します。

3 業者から徴収した見積書を査定することにより予定価格を策定します。この際、金額の査定に先立ち、見積書の見積日付、有効期限、宛先、件名、見積責任者の住所・氏名・捺印を確認した上で、工事仕様書記載内容と対照して、見積書に計上漏れが無いかを確認することが肝要です。

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我が国の公共工事発注方式の歴史的経緯と今日のインフラメンテナンスにおける由々しき状況 

 【 提言 】

 1 戦前の公共工事は官庁直営方式

 明治維新後、新政府は、欧米の制度や技術、芸術、医学などを学ばせるため、各分野で多くの優秀な人材を欧米に留学させました。そして、数年間にわたる欧米留学からの帰国後、特に欧米の土木・建築技術を学んだ人材は、主に官庁で登用していました。その結果として、戦前の我が国では、民間ではなく官庁が最先端の土木・建築技術を有することとなり、公共工事を担う官庁の技術力が民間よりも圧倒的に上という、欧米諸国ではまず見ることができない状況が生み出されたのです。

 そこで、当時の土木・建築の公共工事は、内務省、鉄道省及び農林省が、民間企業に発注するのではなく、設計と施工を「直営」で実施していたのです。つまり、官庁内部の技官が、道路や橋、公共建築物等を自ら設計して施工図面を作成し、その図面に基づく詳細な積算により必要となる経費を算出して、確保した予算で資材や人夫を調達して施工していたのです。

 このように、戦前の公共工事は、欧米諸国では類を見ない我が国独自の官庁直営方式で実施されていたのですが、公共工事の設計や施工を担う技術力を官庁がほぼ独占的に有していた当時としては、官庁直営方式は最も合理的なやり方であったと言えます。

 

2 戦後の土木事業で確立した仕様発注方式

  (1)  仕様発注方式の端緒と根拠となった建設事務次官通達

 戦後になって、公共工事の施工業務の外部委託化が始まり、次いで、設計業務の外部委託化も始まりました。その際、昭和34年1月に、建設事務次官通達「土木事業に係わる設計業務等を委託する場合の契約方式等について」 が発出されています。この通達の中で、「原則として、設計業務を行う者に施工を行わせてはならない。」という、「設計・施工の分離の原則」 が打ち出されたことが端緒となって、設計と施工の分離発注方式、つまり、仕様発注方式が、土木分野で広く用いられるようになっていったのです。

 このような経緯から、我が国の仕様発注方式は、事務次官通達に基づくものであり、法令(法律・政令・省令)に基づくものではない、つまり、仕様発注方式を明示した根拠規程を法令上に見出すことはできないものであると言えます。

 そして、旧建設省所管の土木分野で広く用いられるようになった仕様発注方式が、今度は担当局長や担当課長による通達すら無いままに、旧建設省所管の建築分野及び製造請負分野(電気設備、機械設備等)にも波及していったのです。その結果として、半世紀を経た今日に至るまで、我が国の土木・建築工事や各種製造請負に係る発注は仕様発注方式一辺倒となったのです。

  (2)  昭和30年代は仕様発注方式が最も合理的なやり方

 振り返って見れば、昭和30年代は、公共工事を担う民間企業も育ちつつあったのですが、戦前まで公共工事を官庁直営方式で実施していた官庁の技術力は、何といっても圧倒的でした。このため、「設計・施工の分離の原則」に則った仕様発注方式は、つまり、発注者である官庁から受注者である民間企業に対して「この図面どおりに施工せよ」と細かく指図するやり方は、当時としてはまさに理に叶っていたと言えます。

 ここで視点を変えてみますと、公共工事は、鉄筋・鉄骨・コンクリートが中心の工事です。そこで仮に、官庁に比べて技術力が優れてはいなかった昭和30年代の民間企業に、設計・施工一括で公共工事を発注したとすれば、使用された鉄筋・鉄骨・コンクリートについて、官庁が求めた品質なのか否か、完成検査の時点ではもはや確認の術はありません。それゆえ、「設計・施工の分離の原則」に則り、設計を外部委託した場合でも、官庁内部の技官が、設計結果の審査と委託成果物(施工図面)に基づく詳細な積算による「厳格な予定価格」の策定を行い、設計業者とは別の業者に施工を発注することについては、つまり、仕様発注方式を用いることについては、昭和30年代には大きな意義・目的があったのです。

 ちなみに、欧米諸国では昔も今も、公共工事を担う官庁の技術力が民間企業に優っていた例はほとんど見当たりません。このことから、戦前の官庁直営方式や戦後の仕様発注方式は、いずれも他国に類を見ない我が国独自のガラパゴスと言えます。

 

3 官庁と民間の技術力が逆転した今日の状況に追随できていない仕様発注方式

 昭和から平成に移る頃、公共工事の施工を担う技術力において、官庁は民間企業に逆転され、今日では、施工に係る最先端の高度な技術力は民間企業が有するようになっています。このため、「この図面どおりに施工せよ」といった仕様発注方式は、今日では、あたかも技術力に劣る者が技術力に優る者に指図しているのも同然の、おこがましいやり方になってしまっていると言えます。また、このようなやり方(つまり、仕様発注方式)では、民間の施工業者が有する高度な最先端技術や施工上の創意工夫を存分に活かせるはずもありません。つまり、仕様発注方式は、官庁と民間の技術力が完全に逆転してしまった今日の状況に全く追随できていないのです。このことは、これからのインフラメンテナンスを考えていく上で、とても容認できない由々しき状況であると言えます。

 

 

【 補足 】 

 我が国では、国や自治体が毎年、数兆円規模の公共工事や各種製造請負を発注していますが、殆どが仕様発注方式を用いています。ところが、仕様発注方式では、受注者側が有する最先端技術や創意工夫を存分に活かすことが難しいため、数兆円規模の投資がイノベーション(技術革新)には殆んど繋がっておりません。このことは、技術立国を自認する我が国にとって、大変由々しき事態であるといっても決して過言ではありません。

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「設計・施工分離の原則」への拘りは、インフラメンテナンスに有害無益です。 

 提言 】

 2025年4月に開幕予定の大阪・関西万博では、海外各国が独自に建設する、万博の「華」とも言うべき海外パビリオン(51館)の全てが昨年末時点で未着工であり、その半数近い24館では建設業者が未定(建設工事契約が未締結)です。建設工事契約が締結できた27館では、国内の大手ゼネコンが直接請け負ったケースはありません。万博協会では、年内に建設業者が決まらない海外パビリオンは建設が開幕までに間に合わない恐れがあるとして、箱型のプレハブ方式パビリオンであるタイプXの建設資材を24館分既に発注済みです。しかし、海外パビリオンは、いずれもそれぞれの国内で建築デザインを選りすぐったものであるため、独自建設を断念してタイプXに乗り換える国は少なく、3ヶ国に留まったままです。これでは、2025年4月の開幕が極めて危ぶまれます。

 

 他方、国内パビリオンでは、昨年の8月頃までに全ての建設工事契約がゼネコン等の国内大手建設業者と締結済みです。海外パビリオンと国内パビリオンでは、建設工事契約締結の進捗状況に雲泥の差があります。その原因を調べてみたところ、外国政府のパビリオン建設発注関係者とゼネコン等国内建設業者との間で、建設工事契約についての認識が全くかけ離れているのです。我が国では「設計・施工分離の原則」に基づく設計・施工分離発注方式(つまり、この設計図面のとおりに造ってくれといった、他国に類を見ない我が国独自の仕様発注方式)が常識となっており、工事請負契約書の雛型である「公共工事標準請負契約約款」と「民間建設工事標準請負契約約款」のいずれも、設計・施工分離発注方式を前提としています。ところが、海外ではデザインビルド方式(つまり、別途選定した建築デザインに基づいて設計と施工を一括発注する方式であり、このようなものを造ってくれといった、グローバルスタンダードな性能発注方式)が常識です。このため、外国政府のパビリオン建設発注関係者には、設計・施工分離発注方式の概念を理解することは難しく、ましてや、我が国の標準的な工事請負契約書を理解して用いることは不可能です。

 

 経産省と万博協会は、昨年の8月以降、経産省や財務省の現役幹部職員等を万博協会に異動させて対外折衝体制を強化し、また、外国政府と国内建設業者を引き合わせる会合を複数回開催するなど、海外パビリオンの建設工事契約締結の促進を「組織対応」により図っています。しかし、このような「組織対応」が効を奏して外国政府が国内建設業者と建設工事契約を直接締結した事例は、残念ながら殆どありません。

 ところで、契約の締結については、民法に則り、発注者と受注者が対等の立場で信義誠実の原則に基づき、「誰が誰に」、「何を」、「いつまでに」、「いくらで」、「どうするか」の5点について、発注者と受注者の双方が十分に納得した上で契約書に署名捺印すればよいことです。そこで、契約の当事者である発注者と受注者を「組織対応」で支えるべきことは、前記の5点の内の、「何を」、「いつまでに」、「どうするか」の3点についての合意内容が齟齬無く明確なものとなるように助言すること、つまり、契約書に編綴される発注書の簡潔明瞭かつ必要十分な書き方について、外国政府のパビリオン建設発注関係者に助言することです。しかし、誠に残念なことに、このような支援・助言は全くなされませんでした。

 

 我が国では、昭和34年1月発出の建設事務次官通達「土木事業に係わる設計業務等を委託する場合の契約方式等について」で示された「設計・施工分離の原則」が、今日でも土木分野のみならず建築分野や各種製造請負分野に「我が国の常識」として広く深く浸透しています。設計・施工分離発注方式(仕様発注方式)が我が国だけの常識となっていることの弊害は、海外パビリオン建設契約締結が進まないことで初めて顕在化したのですが、昨年2月の三菱スペースジェットの開発中止や昨年3月のH3ロケットの打ち上げ失敗について分析したところ、やはり、失敗の根元には仕様発注方式の取り組み方や考え方がありました。このように、我が国では仕様発注方式の取り組み方や考え方があらゆる分野で常識となっていることが、我が国のイノベーションを阻害しプロジェクトを破綻させるなど、我が国の技術立国としての立場を危うくしています。このことは、インフラメンテナンスにおける取り組みにおいても同様ですので、インフラメンテナンスでの事業者による創意工夫と最先端技術の活用を促進するには、「設計・施工分離の原則」への拘りをかなぐり捨てることが必要不可欠です。つまり、「我が国の常識」は「世界の非常識」であることを国全体で自覚して、「我が国の常識である仕様発注方式の考え方や取り組み方を、グローバルスタンダードな性能発注方式の考え方や取り組み方に変えていくこと」こそ、インフラメンテナンスの効果的かつ効率的な推進を通じて我が国を再び活性化できる大きな切り札となります。

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1996年に我が国初の性能発注方式が成功した秘訣は、ニーズとシーズのベストマッチング 

 提言 】

 私は、警察情報通信部門の警察庁技官として35年間勤務しました。この間の1996年のことですが、当時、九州管区警察局宮崎県情報通信部長であった私は、宮崎県警察本部のヘリコプターTVシステム新規整備事業を、やむにやまれぬ事情から、前例の無い性能発注方式で取り組むことになりました。結果は、ニーズとシーズをベストマッチングした発注仕様書(今日の要求水準書です。)を短期間(外部委託せずに約1ヶ月)で作成できたことが鍵となり、事業を極めて合理的かつ効率的に完遂できました。具体的には以下のとおりです。

 

 1996年の春のことですが、宮崎県警察本部の地域課(航空隊が所属しています。)から、県費によるヘリコプターTVシステム導入に向けた発注仕様書作成の依頼が来ました。事情を聴いたところ、設計委託費(約五百万円)を予算要求し忘れ、整備費(約一億円)のみが認められたとのことでしたので、九州管区警察局宮崎県情報通信部で発注仕様書の無償作成を引き受けました。     

 

 1996年当時は、性能発注方式という言葉や概念すら無く、発注といえば仕様発注方式、つまり、設計と製造施工を分離して発注する方式しか考えられなかった時代でした。このため、ヘリコプターTVシステムなどの新規整備事業では、まず最初に設計委託費の予算を確保して、警察庁の外郭団体である(財)保安電子通信技術協会に、発注仕様書(数百枚もの詳細な設計図面・搭載図面・施工図面が中心です。)の作成を委託するのが通例でした。

 

 しかし、やむにやまれず発注仕様書の作成を引き受けはしたのですが、宮崎県情報通信部には、数百枚もの詳細な設計図面等を作成する人的余力などありませんでした。この時、思い浮かんだのが、仕様発注方式とは全く異なる、米国での合理的な官庁発注方法(プロポーザルとネゴシエーションに基づく性能発注方式)でした。そこで、担当の課長と係長と私の三人で、試行錯誤により「合理的な発注ができる仕様書」の作成に取り掛かりました。数百枚もの図面など絶対に作成したくなかった(作成できなかった)ので、地域課には「どのようなシステムを導入したいのか」といったヒアリングを繰り返して、また、ヘリコプターTVシステムの製造業者からは最新の機能と性能に関する情報を入手して、発注仕様書で求める整備内容の箇条書きから始めました。このプロセスを振り返ってみますと、性能発注方式の極意と言える、ニーズとシーズのベストマッチングを実践していたことになります。このようなやり方の効果は絶大で、わずか1ヶ月ほどでA4版14頁(図面は、システムの概要図の1頁のみ)の「宮崎県警察本部ヘリコプターTVシステム整備仕様書」が完成しました。

 

 当時の警察におけるヘリコプターTVシステム整備事業は、2社(池上通信機とNEC)の「見積もり合わせによる随意契約」によるものばかりでしたが、日立製作所が宮崎の整備事業への参加を希望して来庁した際に、この「宮崎県警察本部ヘリコプターTVシステム整備仕様書」を見てもらったところ、日立製作所いわく「この整備仕様書であれば、一般競争入札も可能です。」でした。どうやら、数百枚もの詳細な設計図面・搭載図面・施工図面が中心の発注仕様書では、日立製作所がすんなりと参入することは難しかったようです。

 

 そして、宮崎県警察本部の会計課での契約締結後のことですが、発注仕様書を作成した責任がありますから、宮崎県情報通信部で承認図書の内容確認・工場立会い検査・工事監督・竣工検査立会い等を引き受けました。その結果、宮崎県警察本部ヘリコプターTVシステム新規整備事業は、予定した期限内に特段の問題も無く完成することができたのです。

 

 

【 補足 】 

  私は、九州管区警察局福岡県情報通信部長として勤務していた2005年当時、福岡県警察本部の地域課からの依頼を受け、「福岡県警察本部ヘリコプターTVシステム更新整備仕様書」の作成を無償で引き受けました。また、私が関東管区警察局神奈川県情報通信部長として勤務していた2008年当時、神奈川県警察本部の地域課からの依頼を受け、「神奈川県警察本部ヘリコプターTVシステム増設整備仕様書」の作成を無償で引き受けました。 

 その結果ですが、「福岡県警察本部ヘリコプターTVシステム更新整備仕様書」と「神奈川県警察本部ヘリコプターTVシステム増設整備仕様書」のいずれも、当該県情報通信部の担当係長1名により、1ヶ月ほどで作成することができました。加えて、いずれの整備事業も、前記の担当係長が中心となって承認図書の内容確認・工場立会い検査・工事監督・竣工検査立会い等を行った結果、特段の問題も無く期限内に完成しています。

 福岡でも神奈川でも、このように合理的かつ的確に事業を遂行できたのは、「福岡県警察本部ヘリコプターTVシステム更新整備仕様書」と「神奈川県警察本部ヘリコプターTVシステム増設整備仕様書」のいずれも、1996年に作成した「宮崎県警察本部ヘリコプターTVシステム整備仕様書」(これは、一般競争入札に用いて価格と技術の両面で競争原理を働かせることができるほどに完成度の高い要求水準書)を下敷として、最新のシーズと個別のニーズに合わせて焼き直す(具体的には、箇条書きしている文言を修正して、システムの概要図を書き直す)ことにより、極めて合理的かつ効率的に的確な整備仕様書(要求水準書)を作成できたことが大きかったと思います。また、このような整備仕様書(要求水準書)であれば、整備を求める内容が箇条書きで分かりやすく必要十分に記載されていたので、整備仕様書(要求水準書)の作成を担った担当係長が中心となって、承認図書の内容確認・工場立会い検査・工事監督・竣工検査立会い等を責任を持って行うことができたと言えます。

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インフラ老朽化問題で顕在化した自治体の技術職員不足は、包括的民間委託の手法で解決できます。 

 提言 】

 令和6年1月10日付の日経電子版記事「老いるインフラ、地方で放置深刻。橋の6割未着手」、令和6年1月1日付の日経電子版記事「インフラ修繕、自治体が共同で。国交省が支援」、令和5年12月21日付の日経電子版記事「インフラの老朽化対策、霞が関の壁取り払え」によれば、全国の約4分の1の市町村では、土木・建築分野の技術系職員が1人もいないため、事務系職員が老朽インフラ対策工事の発注事務を担っているとのことです。全国の自治体では、老朽インフラ対策工事を全て仕様発注方式(設計・施工分離発注方式)で実施しています。しかし、仕様発注方式では、設計発注段階での成果物(設計図書)の確認や、施工発注段階での監督及び検査について、事務系職員が実効的に行うことは困難です。それゆえ、仕様発注方式による契約の履行上欠かせないこのような発注者としての確認・監督・検査は、外部の業者に「ほぼ丸投げ」で委託せざるをえないところです。つまり、発注者でありながら、発注している具体的な内容を殆ど掴んでいないまま、老朽インフラ対策工事を自治体は発注しているといっても決して過言ではありません。

 

 このような問題を抜本的に解決するためとして、上記の3つの日経電子版記事では、土木・建築分野の技術系職員の確保が欠かせないとしています。しかし、技術系職員はスペシャリストですから、建築分野の職員は土木分野に疎く、土木分野であっても橋梁を専門とする職員はトンネルや道路に疎いと言えます。自治体が抱えている老朽インフラは、橋梁、トンネル、道路、公共建築物など、多岐にわたります。それゆえ、仕様発注方式による契約の履行上欠かせない発注者としての確認・監督・検査を実効的に行うには、当該契約に係る技術分野を専門とする職員をそれぞれ確保しておく必要がありますので、技術系職員を何とかして1人確保すれば済むといった話ではありません。

 

 ところで、令和5年3月22日付の国交省の報道発表資料『「インフラメンテナンスにおける包括的民間委託導入の手引き」を作成しました。「地域インフラ群再生戦略マネジメント」の推進に向けて』によれば、国交省は、橋梁や道路などを別々に維持更新するのではなく、自治体での導入事例が増えている包括的民間委託の手法を用いて、老朽インフラ対策を包括的、合理的かつ効率的に推進しようとしています。包括的民間委託では、仕様発注方式による業者選定ができないため、必然的に性能発注方式(設計・施工一括発注方式)による業者選定となります。性能発注方式では、「受注者にどのような結果を求めているのか」について、受注者が設計と施工を行う上で必要十分となるように分かりやすく示した要求水準書を作成することが肝要です。このような要求水準書であれば、自治体の事務系職員であっても発注内容を十分に理解することができますし、対価支払いに先立つ検査についても、「設計図面通りに寸分違わずできているか」ではなく、「受注者に求めた結果が全て達成されているか」を確認すればよいので、事務系職員でも十分に対応できます。上記の3つの日経電子版記事では、自治体での老朽インフラ対策の推進には技術系職員の確保が欠かせないとしていますが、全国の約4分の1の市町村では技術系職員が1人もいない実情に照らせば、「百年河清をまつ」が如くの夢物語です。それゆえ、事務系職員や専門外の技術系職員でも十分に対応できる包括的民間委託の手法の全面的な採用こそ、自治体の老朽インフラ対策における人材に起因する問題の抜本的な解決策となります。

 

 ちなみに、自治体が老朽インフラ対策工事を発注する際に用いる契約書は、中央建設業審議会決定に基づく「公共工事標準請負契約約款」を雛形としています。この「公共工事標準請負契約約款」は、仕様発注方式の工事仕様書を前提としたものであるため、包括的民間委託に欠かせない性能発注方式の要求水準書とは整合が全くとれません。自治体では新庁舎整備事業等において、詳細設計付き工事発注方式や設計・施工一括発注方式による事例が増えているところですが、「公共工事標準請負契約約款」に基づく建設工事請負契約書を用いざるをえないため、契約書の条項と要求水準書の記載内容には放置できない乖離や矛盾が至るところに生じます。それゆえ、包括的民間委託による老朽インフラ対策を進める上で、性能発注方式の要求水準書と整合する工事請負契約書の雛形を早急に示すことが求められています。

 

 

 【 補足 】

 私は、警察での現役時代(1978年から2013年)に、通算で10年以上にわたり発注の元締め(つまり、工事請負契約書上の「甲」です。)として、土木・建築工事を含む数百件の警察情報通信施設整備事業の全てを性能発注方式により、一度の失敗もなくやり遂げた実績があります。この際、入札不成立案件や一者応札案件は皆無でした。また、このような性能発注方式による発注に対して、会計検査院の会計実地検査を4回受検しましたが、どの検査においても「適正に経理されている」旨の講評を受けておりました。さらに、人事異動で赴任した際に仕様発注方式(設計・施工分離発注方式)で入札不成立となっていた幾つもの発注案件を、直ちに性能発注方式(設計・施工一括発注方式)に切り替えることにより、短期間で契約締結に至った経験と実績も有しております。

 ちなみに、上記の数百件の整備事業発注時に用いた工事請負契約書についてですが、「公共工事標準請負契約約款(A4版36頁)」に基づく工事請負契約書では性能発注方式に全く適合しませんでしたので、A4版4頁の工事請負契約書を独自に作成して用いていました。この独自作成した工事請負契約書につきましても、会計検査院の4回の実地検査において問題視されたことは一度も無く、このような工事請負契約書を含めて「適正に経理されている」旨の講評を受けていたのです。

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